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子供たちが熱唱する『うっせぇわ』は「社畜の怨歌」、私はちっとも共感できない

公式チャンネル登録者は約86万人(YouTubeより)

公式チャンネル登録者は約86万人(YouTubeより)

 強い作品の受け取られ方に幅が出るのは珍しいことではない。賛否両論あることがむしろ現代的、なのかもしれない。コラムニストのオバタカズユキ氏がJ-POPのヒット曲について考察した。

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 仕事場が通学路に面していて、夕方になると下校する小学生たちの声がよく聞こえる。女の子たちの場合は、学校で習っている歌や、その時々の流行歌を合唱しながら通り過ぎていくことも多い。なんとも微笑ましい情景なのだが、先日、そんな彼女らがある歌を、少々ヒステリックなほどに大声で熱唱していた。

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!あなたが思うより健康です!」

 女子高生シンガーAdoのデビュー曲、『うっせぇわ』である。小中学生から青年層まで人気を集めているとは聞いていたが、こんなかたちでその流行ぶりを知らされるとは不意を突かれた。歌っていたのは小学3年か4年生の女の子3人組。サビを歌い上げたあと、ケラケラケラと笑い合って過ぎ去っていった。

 彼女らからしたら流行り歌を仲良しグループで歌ってみましたという、それ以上でもそれ以下でもないことだったのだろう。でも、歌詞が歌詞だけに、担任の先生から理不尽な説教でもされたのだろうか、やはりコロナ禍のフラストレーションが溜まっているのであろうか、などと要らぬ想像をさせられてしまった。

『うっせぇわ』は、昨年の10月に配信リリース。YouTubeのミュージックビデオは公開から1週間で100万回の再生回数に到達。その後もどんどん人気を集め、ビルボードジャパンのダウンロードソング1位を3週連続で獲得するなどしている。

 この原稿の執筆現在、YouTubeの再生回数は、6500万回超だ。DAM CHANNELのカラオケランキングも、週間の総合ランキング5位に上昇。ちなみに6位は大ヒットソング、鬼滅の刃の『紅蓮華』である。

 リズミカルでメロディもはっきりしており、よくできた曲だと思う。そして歌い手のAdoの力量もすごい。ドスの効いた低音から繊細でソフトな高音まで、何種類もの発声法を使い分ける豊かな表現力が、聴く者の感情を揺さぶってくる。

 決して簡単な曲ではないと思うが、一度脳内に入り込むと、何度も何度も勝手にリフレインするような中毒性がこの歌にはある。子供たちに支持されているのも、それだけ曲と歌手に聴くものを惹きつけるパワーがあるからに違いない。

 しかし、この歌は歌詞がなんとも微妙なのだ。具体的には歌詞を直接見てほしいのだが、小さな頃から優等生だったという若いサラリーマンらしき自分が、会社の愚痴をひたすらこぼす。

 世の中の流行や経済ニュースをいつも気にかけ、酒席では酒の注ぎ方から焼き鳥の串の外し方などに神経をくばる社会人マナーに対し、〈うっせぇわ〉と毒づき拒む。どこかで聞いたことのあるような話をする上司の丸顔にケチをつける。

 なのに、そんなあれこれの苛立ちや反発心を、あくまで自分の脳内だけに留めておく〈私〉。尾崎豊が『15の夜』でそうしたように、直接、社会に反旗を翻すわけではない。自分は模範人間だから、手を挙げたりなんかするはずもなく、言葉で批判してやればいいと、脳内でのみ会社や仕事や上司を攻撃する。

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