芸能

子供たちが熱唱する『うっせぇわ』は「社畜の怨歌」、私はちっとも共感できない

公式チャンネル登録者は約86万人(YouTubeより)

公式チャンネル登録者は約86万人(YouTubeより)

 強い作品の受け取られ方に幅が出るのは珍しいことではない。賛否両論あることがむしろ現代的、なのかもしれない。コラムニストのオバタカズユキ氏がJ-POPのヒット曲について考察した。

 * * *
 仕事場が通学路に面していて、夕方になると下校する小学生たちの声がよく聞こえる。女の子たちの場合は、学校で習っている歌や、その時々の流行歌を合唱しながら通り過ぎていくことも多い。なんとも微笑ましい情景なのだが、先日、そんな彼女らがある歌を、少々ヒステリックなほどに大声で熱唱していた。

「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!あなたが思うより健康です!」

 女子高生シンガーAdoのデビュー曲、『うっせぇわ』である。小中学生から青年層まで人気を集めているとは聞いていたが、こんなかたちでその流行ぶりを知らされるとは不意を突かれた。歌っていたのは小学3年か4年生の女の子3人組。サビを歌い上げたあと、ケラケラケラと笑い合って過ぎ去っていった。

 彼女らからしたら流行り歌を仲良しグループで歌ってみましたという、それ以上でもそれ以下でもないことだったのだろう。でも、歌詞が歌詞だけに、担任の先生から理不尽な説教でもされたのだろうか、やはりコロナ禍のフラストレーションが溜まっているのであろうか、などと要らぬ想像をさせられてしまった。

『うっせぇわ』は、昨年の10月に配信リリース。YouTubeのミュージックビデオは公開から1週間で100万回の再生回数に到達。その後もどんどん人気を集め、ビルボードジャパンのダウンロードソング1位を3週連続で獲得するなどしている。

 この原稿の執筆現在、YouTubeの再生回数は、6500万回超だ。DAM CHANNELのカラオケランキングも、週間の総合ランキング5位に上昇。ちなみに6位は大ヒットソング、鬼滅の刃の『紅蓮華』である。

 リズミカルでメロディもはっきりしており、よくできた曲だと思う。そして歌い手のAdoの力量もすごい。ドスの効いた低音から繊細でソフトな高音まで、何種類もの発声法を使い分ける豊かな表現力が、聴く者の感情を揺さぶってくる。

 決して簡単な曲ではないと思うが、一度脳内に入り込むと、何度も何度も勝手にリフレインするような中毒性がこの歌にはある。子供たちに支持されているのも、それだけ曲と歌手に聴くものを惹きつけるパワーがあるからに違いない。

 しかし、この歌は歌詞がなんとも微妙なのだ。具体的には歌詞を直接見てほしいのだが、小さな頃から優等生だったという若いサラリーマンらしき自分が、会社の愚痴をひたすらこぼす。

 世の中の流行や経済ニュースをいつも気にかけ、酒席では酒の注ぎ方から焼き鳥の串の外し方などに神経をくばる社会人マナーに対し、〈うっせぇわ〉と毒づき拒む。どこかで聞いたことのあるような話をする上司の丸顔にケチをつける。

 なのに、そんなあれこれの苛立ちや反発心を、あくまで自分の脳内だけに留めておく〈私〉。尾崎豊が『15の夜』でそうしたように、直接、社会に反旗を翻すわけではない。自分は模範人間だから、手を挙げたりなんかするはずもなく、言葉で批判してやればいいと、脳内でのみ会社や仕事や上司を攻撃する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
中途採用応募者が急に増えて担当者は困惑(写真提供/イメージマート)
《SNSの偽情報で実害》中途採用に「条件満たさない」応募者が激増した企業、勝手にFラン認定された大学は「少子化の中、学生に来てもらう努力を踏み躙られた」
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
日本復帰2戦目で初勝利を挙げたDeNAの藤浪晋太郎(時事通信フォト)
横浜DeNA・藤浪晋太郎を大事な局面で起用する三浦大輔監督のしたたかな戦略 相手ファンからブーイングを受ける“ヒール”がCSの行方を左右する
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン