芸能

落語ファンだから楽しめる仕掛けが随所にある作家・愛川晶のミステリ

推理作家の愛川晶には寄席の世界を題材にした落語ミステリが多い(イラスト/三遊亭兼好)

推理作家の愛川晶には寄席の世界を題材にした落語ミステリが多い(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、1994年に『化身』で第5回鮎川哲也賞を受賞し小説家デビューした作家・愛川晶による、寄席の世界を題材にした落語ミステリについてお届けする。

 * * *
 推理作家の愛川晶には寄席の世界を題材にした落語ミステリが多く、最新作は文庫書き下ろし『芝浜天女』(中公文庫)。八代目林家正蔵を探偵とする「高座のホームズ」シリーズの第4弾で、解説は僕が書いた。

 愛川の落語ミステリには他に「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」「神楽坂倶楽部シリーズ」がある。中でも「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」は彼の落語ミステリの原点ともいうべきもので、第一作品集『道具屋殺人事件』は2007年に刊行された。解説を書いたのは当時二ツ目の鈴々舎わか馬。今の柳家小せんである。

「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」第二作品集『芝浜謎噺』(2008年)所収の短編『野ざらし死体遺棄事件』では、後半を作り変えた『野ざらし』が語られる。この執筆に当たり、愛川は自分のアイディアが現実に通用するものか、実際の高座でわか馬に演じてもらった。以降わか馬は『夜鷹の野ざらし』としてこれを得意ネタとし、小せん襲名後も演じ続けている。1月の「春談春」にゲスト出演した時のネタもこれだった。

 従来の『野ざらし』では骨に酒を掛けた八五郎の独り言を聞いた野だいこが祝儀目当てで長屋を訪れ「新朝というタイコです」と名乗り、「新町の太鼓? しまった、あれは馬の骨か」でサゲ。これは新町に太鼓の店があったこと、太鼓には馬の皮が用いられたことに掛けているが、多くの演者はこのサゲまで演らず、八五郎が釣り人たちに迷惑を掛けまくったところで終える。

 だが『夜鷹の野ざらし』は後半にこそ意味がある。冒頭の「隣家の尾形清十郎を幽霊が訪れた」という話の謎解きがなされるからだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン
WEST.中間淳太(37)に熱愛が発覚、お相手は“バスり”ダンスお姉さんだ
《デートはカーシェアで》“セレブキャラ”「WEST.」中間淳太と林祐衣の〈庶民派ゴルフデート〉の一部始終「コンビニでアイスコーヒー」
NEWSポストセブン
Aさんは和久井被告の他にも1億円以上の返金を求められていたと弁護側が証言
【驚愕のLINE文面】「結婚するっていうのは?」「うるせぇ、脳内下半身野郎」キャバ嬢に1600万円を貢いだ和久井被告(52)と25歳被害女性が交わしていた“とんでもない暴言”【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン