10年前の“ポリコレ”はネットの民主化運動として機能していた

「我こそが愛国愛党の士である」「われらこそが中国共産党の精神に則っている」、抗議者たちがこのようにアピールするのは珍しい話ではない。

 例えば、2011年末に中国で起きた「烏坎事件」が典型だ。村役人が共有地を売り払い、その代金を自分のものにしてしまったことが発端で、村人たちが決起。ネットを駆使し、中国共産党が決めた村役人を追い出し、自分たちで村役人を選びたいと主張した。海外メディアは「民主主義を求める中国の農民が出現!」と注目したが、農民たちはそんなメディアを尻目に、「自分たちこそが中国共産党に忠実に従う民なのだ」とアピール。農民たちは、中国共産党と一緒に悪代官を倒した“同志”という形式に落ち着いた。

 これは言わば、「水戸黄門モデル」だ。各地に悪政が横行しているが、悪いのは悪代官であり、下々の民衆とトップの統治者は同じ陣営に属する。この水戸黄門モデルならば中国共産党もメンツが立つし、下々の村民も村役人追放という目的を果たせる。

 当時は世界的に見ても、ネットを使った抗議活動、ポリティカル・コレクトネス的価値観を掲げて政府を揺さぶる活動に注目が集まっていた。10年前は、中国版“ポリコレ”が抗議活動に上手く活用されていたわけだ。

 この他にも、2010年にチュニジアの民主化運動「ジャスミン革命」が起き、その翌年には中国でも民主化を呼びかける「中国ジャスミン革命」が起きた。当時はネットの力が独裁体制を変えるやもとの期待があったわけだが、10年が過ぎた今、気づけば“オタク向けアニメを叩いて、動画配信サイトのカラーを変える”といった、モンスタークレーマーの道具に堕してしまったのであった。

【高口康太】
ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

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