“過剰な正義”振りかざす「ポリコレ棒」とは

 この状況を理解するためには、中国版“ポリコレ棒”について知る必要がある。

 ポリコレ棒とは、「ポリティカル・コレクトネス(政治的な公正さ)」を過大に解釈して、さまざまな問題に圧力を加えるため、行き過ぎた正義と言う名の“棒”を振りかざすことを意味する俗語だ。どこまでが正当なポリティカル・コレクトネスでどこからがポリコレ棒なのかは判断が難しいところだが、米国ではポリティカル・コレクトネスに対する反発がトランプ前政権への支持にもつながったとされ、世界的な問題に発展していると言える。

 中国では、人権やジェンダー、人種差別といった西洋的な普遍的価値に基づくポリコレ棒は見当たらないが、「愛国愛党か」「社会風紀を乱していないか」といった中華人民共和国の価値観に基づく“中華版ポリコレ棒”が横行している。中国ネットウォッチャーとして知られる在日中国人のPANDA氏によると、今回の一件はまさにその典型だという。

「bilibili動画は、ニコニコ動画にインスパイアされて命名されたことからもわかるとおり、もともとアニメオタクたちが集まる動画配信サイトでした。しかし最近では、ユーザー層の幅が広がり、非オタクの女性ユーザーも増えました。それなのにbilibili動画は今でもオタク最優先で、『無職転生』もトップページで大々的に宣伝されています。これを苦々しく思った人々が決起したというのが事件の根幹にあります」

 オタクではない者たちにも配慮したサイト運営をして欲しいという願いは理解できるが、スポンサー企業にまでクレームを送りつける手法は過激にも思える。

「確かに過激ですが、同情すべき余地もあります。普通に申し入れしても無視されるだけ。実効的な効果をもたらすには通報しかありません。ユーザーの希望は無視する企業でも、“貴サイトのコンテンツは中華人民共和国の社会風紀を乱している”“愛国精神に反している”と言われるとリスク回避のために何らかの行動を取らざるを得なくなりますから」(PANDA氏、以下同)

 現状を変えようとすれば、“ポリティカル・コレクトネス違反”を口実に、過剰な批判キャンペーンに発展させるしかないわけだ。こうした動きに中国企業はみな戦々恐々としているが、尖閣問題や歴史問題などの火種を抱える日本企業は槍玉にあげられやすい。

「有名声優の茅野愛衣が靖国神社を訪問したことをネット番組で話したところ、謝罪に追い込まれたこともありました。政治に絡んだ問題は、“中国ポリコレ違反”として炎上キャンペーンを張る口実にされやすいので、企業側は戦々恐々です。アニメ声優など中国でビジネスをやっている方は今後慎重な行動が求められるでしょう」

関連キーワード

関連記事

トピックス

田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(中央)
《父・修被告よりわずかに軽い判決》母・浩子被告が浮かべていた“アルカイックスマイル”…札幌地裁は「執行猶予が妥当」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン