報告された内容は赤裸々で品がない。オバマ大統領のアジア歴訪に同行した際に、真夜中に泥酔して部下の女性の部屋のドアを叩き、「君が必要だ。俺の部屋にすぐ来い」とわめいたり、女性に対して「いいケツをしてるな」「デカパイだ」「隠してるイレズミを見せろ」などと発言したりしたという。パワハラ、酒と薬への依存も細かく報告されている。
「この報告書は、私がオバマ引退後にトランプ氏に仕えたことに対する報復だ。政治的魔女狩りだ」とジャクソン氏は反論するが、むしろ以前から疑惑視されていたものが、トランプ時代には封印されていたというのが正しい。もちろん、バイデン政権で初の黒人国防長官に抜擢されたロイド・オースチン退役陸軍大将が公開を許可したことには政治的な匂いがプンプンする。
さて、両党のホープはこれからどうなるか。クオモ知事には辞任を求める声が高まっているものの、民主党内では「セックスを強要したわけではないのだから、辞任までは必要ない」といった擁護論がまだ支配的だ。一方、ジャクソン氏に対しては、民主党が多数を占める下院の倫理委員会が調査に動く構えを見せている。
政界でもメディアでも、左右両派が相手の弱点を探って「特高警察」を組織しているのが今のアメリカだ。「瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず」(古楽府・君子行)は、いつの時代にも政治家の処世訓だが、あまりにもスキャンダル合戦がエスカレートすれば、攻撃する側もそのうち「物言えば 唇寒し 秋の風」(芭蕉)になりかねない。
■高濱賛(ロサンゼルス在住ジャーナリスト)