かつての主治医で現在は上司の牧本敦医師(左)と松井基浩医師

かつての主治医で現在は上司の牧本敦医師(左)と松井基浩医師

高校へ復学しても「日常」には戻れなかった

 普通に高校生活を送っていたならば、おそらく出会うことも、友達になることもなかったかもしれない小さな子どもたち。赤ちゃんから少し年上の20歳まで、小児がん病棟には同じがんという病と闘っている人たちがいた。そして年齢差を越えた新しい友達の存在は、松井さんの気持ちを確実に変えていくきっかけとなる。

「僕は病気が分かって入院するまでは、別に目標もなかったし、実は年下の子たち、子どもも苦手だったんです。でも自分よりずっと小さい子たちの明るい姿に助けられ、主治医の先生の『治る』という言葉と、今後の治療について僕が不安にならないように、分かりやすく説明してくれる姿に安心させてもらえた。だから今度は、自分がそんな子どもたちを助けたい、先生のような医師になりたいと思うようになりました」

 しかし、健康であっても難関の医学部受験。医学部を目指す学生の多数は、幼少期から塾へ通い、高校生ともなると受験勉強以外すべてのことを我慢し、ひたすら勉強漬けの日々を送るといっても過言ではない。しかも病を抱えながらのチャレンジは、一筋縄ではいかなかった。

「8か月の入院中は院内学級で勉強しました。主治医の先生に『医師になりたい』と話したら、治療以外の医師になるためのアドバイスもたくさんくれたんです。周りの人たちに支えられて、少しずつ前向きに楽しく過ごせるようになりました」

 生活のすべてが病院の中だけになった松井さんにとって、病と闘う仲間、主治医の先生をはじめとした医療従事者の存在は、大きな支えとなっていった。副作用によるつらさ、学校へ行けないもどかしさも、誰も何も言わなくても分かってくれた。

 入院生活に慣れた頃には、院内学級の1時限目が苦手な国語だとわかると「……気持ち悪いです」と、患者ならではのちょっとだけかわいい嘘をついて、たまに国語の授業をサボるほどに落ち着いていく。

 多くの血液のがんは、長期の化学療法が治療の中心となり、退院しても通院による抗がん剤治療が続く場合が多いため、退院して高校に復学した松井さんも例外ではなかった。通学できるようになってからも、通院による抗がん剤治療は続いた。あれほど待ち望んだ学校へ通える日々へ戻ったはずの松井さんだったが、それは以前に思い描いたような、普通の日常ではなかった。

「復学したとき、クラスの人間関係はすでにできあがって、そこに入っていくのも、勉強に追いつくのも大変で。通院の日は学校を休まなくてはいけないし、副作用で髪の毛も抜けたので帽子で隠しました。当時は医療用男性ウィッグの情報も少なかったし、多感な時期で人の視線も気になりました。男でもやっぱり髪の毛が抜けるのはつらい。あと、男ってなかなか人に相談できないっていうのもあります」

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