少年時代に主治医だった牧本敦医師(左)に松井基浩医師は「改めて感謝しています」

少年時代に主治医だった牧本敦医師(左)に松井基浩医師は「改めて感謝しています」

 気が合う仲間を探ってグループをつくる新学期のチャンスを逃した十代の少年にとって、ひとりだけ新参者という環境で、気が合いそうな同級生を探し当てるのは難易度が高い。それに、個人差はあるだろうが、男性は女性に比べて、特に目的が無いおしゃべりをしたり、されたりするのが苦手な人が多い。それはたわいもない会話からなんとなく同級生に受け入れられるという道筋を作りにくくさせる。入院時よりも同年代の人たちに囲まれているのに孤独な状況に置かれた松井さんは、さぞ混乱したことだろう。そして、その困惑を誰かに相談することもままならなかったに違いない。なぜなら、学校では自分の闘病を理解して共感してくれそうな同級生は見つからなかっただろうから。

 また、同級生の輪にまったく入ることができなかっただけでなく、勉強の遅れも医学部を目指す松井さんを苦しめた。

 それでも医師になると決めた強い信念と、同じようにがんと闘っていた年上の18歳と20歳の仲間の言葉が松井さんを奮い立たせた。

「絶対に医者になれ、松井くんにしかできないことがある。病気を治すのは自分だけど、それを支えてくれるのが医者。患者の気持ちを理解して、接してくれる医者が必要なんだ」

 もしかしたら松井さんは、がんになっていなければ、医師を目指すこともなく、同級生たちと楽しく遊び、青春を謳歌するなかで、全く違う道を見つけていたのかもしれない。

「医学部受験の塾でさえ、4~5回落ちました。偏差値も50の真ん中くらいだったんです。抗がん剤で身体がつらい日もあったけど、絶対に合格して医師になる。それだけを考えて必死に勉強しました。復学しても学校の友達の輪には入れなかったけど、悩む時間はもったいない、そんな時間があったら勉強しようと思ったんです」

 そして、国立浜松医科大学へ見事現役合格を果たす。特別な夢もなかった16歳の秋、突然告げられた、がんという現実に一度は死を意識し、塞ぎ込んだけれど、医師になるという揺るぎない目標ができたことで、つらい治療を続けながら猛勉強の末に掴んだ合格だった。合格がわかったときは、支えてくれた家族全員で泣き崩れたという。

治療以外の不安や悩み、そんな気持ちにも寄り添いたい

 しかし、その一方で、そんな松井さんをずっと励まし、応援してくれた、まだ18歳と20歳の闘病中だった2人の仲間は、きっとあったはずの夢を叶えることができないまま、この世を去った。

「苦しいことがたくさんあっても夢を追える。どんなに大変でも頑張ろうと思える。2人に思いを託されたような気がしました」

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