訪米に向けてワクチン接種した菅首相(時事)
中国の力が増し、経済や軍事でアメリカと拮抗するようになるにつれて、両国の対立はこれからも激しくなるだろう。アメリカに住む中国人も増えるはずだ。中国系アメリカ人の人口は、すでに3800万人に達しており、アメリカの総人口の1%を超えている。そして、中国系ロビー団体の活動と資金力は強く、アメリカの議員をも動かしている。
こんな状況が続けば、特に白人アメリカ人の中国系に対する反発はますます強まるだろう。トランプ前大統領の影響もあり、かなりのアメリカ人がコロナウイルスは中国が人工的に作り、アメリカを滅ぼすためにバラ撒いたと信じている。極右団体や移民を忌み嫌う白人至上主義者が実力行使に出る事件は、大小問わず頻発するようになった。
バイデン大統領の政治信条からすれば、本当は中国と協調路線を歩みたいだろうが、今のアメリカの世相や世論を見ればそれは難しい。厳しい対決姿勢を示すしかないだろう。もし中国に対して甘い対応をすれば、トランプ氏はもちろん、極右団体や白人優先を目指す保守的共和党議員が黙っていない。だから今のところ日本に対しては融和的な政策を約束しているが、これも必ずしも本心ではない。むしろ、面倒な対中政策で日本を前面に押し出して盾にしようとしている可能性もある。
日本が損な役回りを押し付けられ、しかも、アメリカで日本人を巻き込む暴力事件が多発するのでは割に合わない。4月に訪米する菅義偉・首相は、このヘイトクライム問題もきちんと取り上げたうえで、バイデン大統領の笑顔の裏にある本音を見抜いて、したたかな外交を展開する必要がある。
■佐藤則男(ニューヨーク在住ジャーナリスト)