実は、この「黄金の第2期」を支えたのは、エンジン開発におけるホンダの「気づき」だったという。自動車評論家の舘内端氏に聞いた。
「F1第2期の前に、ホンダはヨーロッパF2選手権にエンジン供給で参戦して実績を積んでいました。それまでホンダはパワー重視で、パワーを上げるにはエンジンの回転を上げればいいという考えだったのですが、どうもそれだけではないということがわかってきた。それをF2で研究、実証しようとしたのです。その答えが見えてきたところで満を持してF1に再挑戦して成功したということです」
その内部事情について、ホンダでレーシングカーデザインを手がけたF1解説者、森脇基恭氏がこう明かす。
「当時のホンダの技術は世界的にも高く、ECU(電子制御装置)やテレメーターといったデジタル技術をいち早く取り入れていました。それによって、レースやテスト走行の解析がきめ細かくできるようになった。そのアドバンテージが第2期のエンジンの強さの秘密でした。それまではエンジン性能とはエンジンパワーのことであり、それによってラップタイムが決まると考えていました。しかし、いろいろ解析してみると、必ずしもパワーでラップが決まるわけではないことがわかった。例えば、鈴鹿サーキットを1周するなかで、1万8000回転まで上げるのは1.2秒くらいしかない。そこで10馬力の差が出るようにするより、そこに至るまでのトルクを膨らませたほうがラップが速いということがわかり、ライバルに差をつけるエンジンが作れたのです」
レースが技術を育て、それが製品を育てるという幸福な連鎖が当時はあった。EVや環境技術、消費者のニーズにあわせたワゴンや軽自動車中心のラインナップが求められる時代には、F1はメーカーの重荷なのかもしれないが、あの輝かしい時代を知るファンにとっては、ホンダの撤退はさびしいニュースである。