三浦春馬さんも出演している
本作において元康は、主人公を“導く”立場にある。昨年末に公開された映画『天外者(てんがらもん)』で三浦さんが演じた五代友厚は、どこか三浦さん自身と重なるキャラクターであった。今作の元康もまさにそう。常に前を向き、未来への希望を後続する者たちに託そうとする存在なのだ。本作での三浦さんは俳優として、これからさらに成長していく後輩たちを激励するようなポジションにあると思う。三浦さんと元康との重なりを感じずにはいられない。
新田は、その後輩たちの先頭に立っている存在。近年は立て続けに大役を務めており、若手俳優の中でも抜きん出た存在だ。『OVER DRIVE』(2018年)、『十二人の死にたい子どもたち』(2019年)、『カイジ ファイナルゲーム』(2020年)など大作映画で常にキーとなる役どころを担い、出演作のいずれもが彼の代表作となってきた印象があるだけに、今作が初の単独主演作というのが意外なくらいである。岩田剛典(32才)とともに観客をスリリングな映画体験へと導いた『名も無き世界のエンドロール』(2021年)もそんな一作といえるだろう。
本作での新田は、主役でありながら非常に頼りないのだが、映画『サヨナラまでの30分』(2020年)などで自信に満ち溢れたエネルギッシュな人物も演じていることから見ると、正反対とも言える蒼役は、新田の演者としての技術の高さを浮き彫りにしたように思う。単に萎縮した人物を演じているのではなく、視線の揺れやわずかな声の震えで自信のない人物像を体現しているのだ。序盤で見せる蒼の憂鬱そうな表情が、次第にリーダーとしての顔つきに変わっていく過程は見逃せない。そのきっかけを与えるのが、三浦さん演じる元康である。
元康が蒼に希望を託すシーンは、リアルな三浦さんと新田の関係とも重なって見えて、感涙必至だ。元康はこの時代をけん引する存在であり、三浦さん自身もそうだった。彼がエンターテインメント界の中心に立ち、その先頭を走り続けた存在だったことは広く知られている。三浦さん自身を思わせる元康の“想い”を、全力で受け止める蒼役の新田。彼もまた、これからのエンターテインメント界を切り拓いていく存在となるだろう。本作での2人の演技から、そう感じさせる“バトン”をはっきりと目にした人は、筆者だけではなかっただろう。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。