亡き友人に、長生きだからできたことを伝えたい
昨年見た映画のなかで、石橋蓮司主演の『一度も撃ってません』は秀逸だった。岸部一徳や佐藤浩市、豊川悦司、妻夫木聡、江口洋介という豪華キャストとともに、桃井かおりが出ていてうれしくなった。アメリカに行きっぱなしかと思っていたが、時々帰ってきてこういうしゃれた映画に出ている。
山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』や『男はつらいよ』、倉本聰のドラマ『前略おふくろ様』で飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、1981年にニューヨークへ行ってしまう。しばらくして八ヶ岳で生活していると聞いていた。俳優業のほかに、監督としても活躍。監督作『無花果の顔』は、ベルリン国際映画賞で賞を取っている。
2015年には9歳からの幼馴染と64歳で結婚。昔は次の仕事に備え、いつも待合室にいた感じだったというが、今はちゃんと私生活がある。彼女は、亡くなった松田優作や萩原健一らといつか再会したとき、長生きしたからできたことを、いっぱい持っていきたいという。こういう考え方はとてもいいなと思う。
アメリカと日本で2つの拠点を持ちながら、それぞれ刺激を受けることが、人生を充実させることにつながっているのかもしれない。
がんの再発がわかった日、不安から自由になった
この連載で何度も絵本を紹介してきたが、ぼくの好きな絵本に『100万回生きたねこ』(講談社)がある。その作者、佐野洋子さんは72歳で乳がんで亡くなった。
医師から乳がんの再発を知らされた病院の帰り道、ふと目に留まったのはブリティッシュグリーンのジャガーだった。彼女は、迷わず指さして「それください」と言ったという。がんの再発がわかった日に、ジャガーを買うなんて、どういう心の動きなのだろう。医師に質問した。
「あと何年もちますか」
「ホスピスを入れて2年くらいかな」
「いくらかかりますか死ぬまで」
「一千万」
長生きすれば、それなりにお金がかかる。けれど、命の期限を切られ、かかるお金が見えてくると、逆に不安から自由になる。「生きている」という目の前の幸せだけをかみしめて生きることができるのだ。ぼくも緩和ケア病棟で、こういう人たちの姿をたくさん見てきた。