不祥事からの復活を期したが(2015年7月不正会計問題を謝罪する経営陣。中央が当時社長だった田中久雄氏。写真/AFP=時事)
経産省はこれまでも車谷体制に肩入れしてきた。昨年の株主総会では東芝の議決権4%を持つ海外ファンド、ハーバード大学基金に対して、経産省参与の水野弘道氏が、東芝の経営側と対立する内容の議決権行使をした場合、外為法に基づく調査が行なわれる可能性に言及したと海外メディアに報じられた。
「事実なら、経産省が東芝のために海外投資家に圧力をかけたことになります。海外投資家の排除は、経産省にとっても望むシナリオなのでしょう」(大西氏)
CVCが想定する買収スケジュールは6月中旬までに最終提案をまとめ、7~8月にかけてTOBを行ない、早ければ10月の上場廃止を見込んでいる。企業価値を高め、約3年後の再上場を目指すという。
「上場廃止」で何が起きるか
今回の買収が実現して、東芝の経営が安定するのであれば、国益にも適うのかもしれない。だが、経済ジャーナリストの町田徹氏は否定的だ。
「不正会計や債務超過を起こした東芝には破綻させて再生を図るべきという声も多かったが、東芝が上場を維持する姿勢を取ったため、政府も東証も金融機関も協力してきました。2017年には決算発表を3度も延期し、金融庁は有価証券報告書の提出期限を延長することを特例で認めました。さらに上場を維持するため、2017年12月に6000億円もの増資を実施。アクティビストの経営への口出しが危惧されましたが、東芝はそれを承知で増資に踏み切った。案の定、その通りになり、頭を抱えた東芝は、今度はCVCに買収してもらって上場廃止するという。組織を守ることを優先するための、あまりに不健全な経営判断にも見えます」
大手家電の海外企業への“身売り”といえば、2016年にシャープが鴻海(台湾の電子機器の受託製造企業)の傘下に入ったケースがあるが、この時の鴻海には「シャープの技術力とブランド力を手に入れる」という目的があった。しかし現時点ではCVCが東芝を買収してからの「メーカーとしての発展ビジョン」は全く見えてこない。
翻弄されるのは12万5648人(2020年3月末時点)の東芝社員(連結)だ。
「現時点で会社からのアナウンスはありません。6月に予定されているCVCの最終提案に事業の整理などが記載されていると見られているため、社内の動きはそれからでしょう。車谷氏は就任後に大胆なリストラで業績を回復させましたが、今回も大規模なリストラが行なわれるのではないかと不安視する社員は多い」(30代社員)
予断を許さぬ買収騒動は東芝復活の起死回生の一手となるか、それとも「二度目の壊滅」の入り口なのか──。
※週刊ポスト2021年4月30日
車谷暢昭社長は突然の辞意(時事通信フォト)