そんな中、突如として浮上したのがCVCの買収提案だった。車谷氏は、2018年3月までCVCの日本法人の代表を務めていた。3年前まで在籍していた古巣による買収提案なのだから、「絵図を一緒に描いていた」(同前)と見られるのも当然だろう。
「CVCがTOBを行なう場合、6日終値の株価の3割増し程度での買い取りを提示するはず。高値で売り抜けたい海外投資家は株を手放すでしょう。それによって東芝は、アクティビストとの関係を解消できる。つまり、外資でありながら、CVCは東芝と車谷氏にとってまさに“ホワイトナイト(白馬の騎士)”だったのです」(大西氏)
経産省にとっても望ましい
今回の買収提案には、もう一つ注目の報道があった。4月10日、日経新聞1面に載った「東芝買収、日本勢参加も」という記事によれば、CVCによる買収提案は単独ではなく、産業革新投資機構や日本政策投資銀行といった政府系金融機関も参加する想定だというのだ。
「外資色を薄めるためでしょうが、政府系金融機関の名が挙がっていることで、経産省の関与が想像されます。
2019年に外為法が改正され、原子力や防衛装備品など安全保障に関わる企業を海外企業が買収する場合には、事前届け出と国の審査が必要とされる。東芝はまさしくそれに該当するが、CVCはクリアできる自信があるということ。経産省に根回ししているのではないかと見られており、それには車谷氏も関わっていた可能性が高い」(大西氏)
車谷氏と経産省の間にはパイプがある。
三井住友銀行出身の車谷氏は、同行の常務執行役員時代に東日本大震災による原発事故で経営破綻した東電の救済スキームをとりまとめたことで名を知られている。金融界の預金保険機構を真似て「原子力賠償機構」をつくり、他電力各社や政府の資金を財源に充てる独自のスキームをまとめ、政府や金融界と調整。最終的に経産省がこのスキームに乗った。
「経産省は表立って一民間企業を救済することはできなかったので、車谷氏のアイディアはまさに渡りに船だった。経産省はその貢献を高く評価しました」(大西氏)
2017年5月、頭取レースに敗れた車谷氏が新天地として選んだのがCVCで、その翌年の2018年4月に東芝の社長に就任している。
「車谷氏は東芝を知るバンカーで、東電救済スキームをまとめた実績もあり、何より自らファンドを運営し、海外投資家にも対峙できるという触れ込みでした。
この就任を(長く東芝のメインバンクだった)三井住友銀行の意向と見る向きもありましたが、実際には経産省の意向が働いたと見ています。経産省としては、原子力や防衛技術を有する東芝を外資に翻弄されたくない。東電再建スキームは経産省のエネルギー畑が担当していて、今回の東芝の再建も同じプレーヤーが関わって進めることができるのもメリットだった」(大西氏)