ライフ

「目と鼻のない娘」が18才になり、母が感じたエンタメの可能性

倉本美香さん千璃ちゃん

生まれつき眼球と鼻梁がなく、心臓にも穴が空いていた千璃ちゃん。写真は14才の頃。

 ニューヨークでビジネスコンサルティング会社を主宰する元客室乗務員の倉本美香さん。2003年、美香さんの長女としてニューヨークで生まれた千璃(せり)ちゃんは、眼球と鼻梁がない重度の障害をもっていた。

 トンネルの中を模索し続けるようだったという美香さんだが、千璃ちゃんにたくさんの勇気をもらったから、同じ困難に向き合っている人、またそうでない人達にも伝えたい、と書き綴っていた日記をまとめた著書『未完の贈り物 娘には目も鼻もありません』(産経新聞出版/文庫版・小学館)を2012年に刊行。続編『生まれてくれてありがとう 目と鼻のない娘は14歳になりました』(小学館)もあわせ、多くの人々の心を揺さぶるベストセラーとなった。

千璃ちゃん2才の頃。

千璃ちゃん2才の頃。小さな体で何度も手術を繰り返してきた。

 そして、千璃ちゃんが18才の誕生日を迎えたこの春、この著書が原案となるリーディングミュージカル『DUSK』の公演が東京で行われている(~4月25日、「ミュージカルを考えるチーム ビエンナーレ」)。「刊行してから9年が経過して、今でもこうして作品から繋がるメッセージを、第三者が伝えようとしてくださることに、大いなる意義を感じています」と美香さんは話す。

 差別や偏見とたたかいながらも必死に生きていく美香さん家族の軌跡を読んだプロデューサー、演出家をはじめスタッフが一丸となり、その思いを伝え、道に迷っている人の心に明かりを灯す機会になれば、とメッセージをこめられたこの舞台。

 決してミュージカル劇に仕立てやすい題材ではないはずだが、それでも美香さんと家族の物語には、向き合いたい、向き合わなければ、と引き寄せる強い力がある。

「現在千璃は、ニューヨークアップステートにあるスペシャルスクールで過ごしています。今でも言葉を発することはなく、全てに介助が必要ですが、干支が一回りしてようやく歩けるようになった後、今は白杖を使って歩く練習をしています」(美香さん)

 現実の物語は続いていて、このミュージカルも安直なハッピーエンドでは終わらない。それでも、見終わった後、生きていくことに光が見えるような、清々しい前向きなエネルギーが沸いてくる。

 ニューヨーク在住の美香さんは、ワクチン接種も行い万全の感染防止対策でこのたび来日し、初日から観劇した。

「世に伝えた時点で作品は一人歩きしていくものですが、2019年秋に舞台化された時とは、まったく別の制作チームが、まったく違う目線で作り上げてくれました。その姿を見て、本を読まない人たちに伝える手段としてのエンタメの可能性を感じる機会にもなりました」(美香さん)

関連記事

トピックス

米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
女性初の自民党総裁に就いた高市早苗氏(時事通信フォト)
《高市早苗氏、自民党総裁選での逆転劇》麻生氏の心変わりの理由は“党員票”と舛添要一氏が指摘「党員の意見を最優先することがもっとも無難で納得できる理由になる」 
女性セブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン