そうした中、アパレル業界の一部の健保組合では、多くの組合員がサービスを使いにくいという指摘がある。大手アパレルの現役幹部が語る。
「ファッションに携わる仕事がしたい。そんな夢を抱いてアパレル業界で働く人の大半は、ショッピングセンターや百貨店などで働く『ショップ店員』です。他業界に比べて女性の割合が多く、年齢は20代、30代と若い。独身や非正規の人が多いことも特徴です。アパレル業界の明るくて、華やかなイメージは、そうした女性たちに支えられている部分も大きいでしょう。
ところが、アパレル業界で働く人に保険サービスを提供する健保組合は、旧態依然とした中高年男性の人向けのサービスに偏っていて、若い女性を中心とした多くのアパレル店員には利用しづらいものでした」
ユナイテッドアローズやビームス、ウィゴー、トゥモローランドなど、若者に人気のセレクトショップで働く人の多くは、アパレル業界の健保組合「東京ニットファッション健保(以下、KF健保)」に加入している。
KF健保は関東の衣料品卸問屋が1953年に結成。戦後間もない時期で、これから日本の高度経済成長が始まる、という時期だ。当初は「東京メリヤス健保」という名称だった。メリヤスとは、1950年代に流通した生地のこと。その後、「ニットファッション」に改称された。
結成当時は、ファッションビジネスの中心は百貨店や、地域に根付いた商店街のブティックであり、衣料品卸問屋を通じた商売が盛んだった。
しかし、1990年代に入ると、アパレルブランドは自社で製品を企画、製造、小売を展開するようになり、卸問屋のような仲介業は衰退。ちょうどその頃、まだ規模は小さかったが伸び盛りというアパレルブランドが加入したのがKF健保だった。現在の保険加入者は9万人弱いるが、いまや大半は大手アパレルの従業員で構成されている。
健保組合には企業単位で作られる「単一健保」と、産業別で企業が集まり作られる「総合型健保」があり、働き方や年齢・性別などの従業員特性に合わせて保険事業が行われている。