例えば、加入者が出産したとき、国保や協会けんぽは最大42万円の出産育児一時金がもらえるが、健保組合はさらに「付加給付」が上乗せされるケースがある。他にも、健保によっては避暑地や温泉地に保養施設を運営していたり、スポーツジムと契約して加入者が無料で利用できるようにしたりするなど、ニーズに応じた創意工夫がなされている。
「アパレルの卸問屋は東京に拠点が集中し、中高年男性が多い。一方、アパレル小売は若い女性が多く、勤務地は地方のイオンモールなどのショッピングセンターであることが少なくなく、勤務地が全国に散らばっています。労働時間が長く、立ち仕事という働き方です。それにもかかわらず、KF健保の健康診断が受けられる医療機関は首都圏に集中し、健康増進事業として行われているのは野球大会やハイキング。一方で、出産時の付加給付は他の健保に比べ少ない。
その結果、健康診断の受診率が低くなっています。労働安全衛生法では受診率100%と定められているのに、KF健保の受診率は6割ほどなのです」(前出のアパレル業界幹部)
こうした状況に不満を募らせたアパレル企業が動き出した。
『niko and…』や『グローバルワーク』などのブランドを展開する東証一部上場のアダストリアが2017年、KF健保に脱退を申し出たのだ。
同社の従業員数は約8800人と、KF健保の加入者の1割を占めている。しかし、健康診断の受診率は50%を割っているなど、加入企業の中でも保険サービスを享受できていない状況だ。
アダストリアは脱退後、単一健保を設立することによって、健康診断が受けられる機関を現状のKF健保の約600か所から約3000か所にまで増やし、受診率を向上させる方針だ。また、出産一時金付加給付の増額や、婦人科健診、インフルエンザ予防接種の自己負担廃止(無料化)を実現させる──つまり若い女性スタッフのニーズに沿った運営をするとしていた。また、保険料率を引き下げ、従業員が負担する保険料が年間で約2万円減額できると試算していた。
実際、単一健保に変わるよって保険事業が充実している事例もある。アメリカのヘルスケア企業のジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人は、当初、製薬業界の健保組合に加入していたが、脱退して単一健保を設立。加入者への独自サービスをする保険事業に使う資金の割合を増やすことができた。