アダストリアの場合、従業員の大半がKF健保から脱退し、自社健保を設立することに同意しているという。
ところが、KF健保はアダストリアの脱退を3年にわたり拒否し続け、従業員はいまもKF健保に保険料を支払い続けているのが現状だ。
アダストリアは2017年4月、KF健保に「2018年3月での脱退」を申し出た。その際は、当時の理事長は理解を示していたという。ところが、2017年6月に理事会で脱退が議題に上ると、一部の理事が反対し、脱退は認められなかったという。
アダストリアは2018年、2019年にも脱退を申し出たが認められず、2020年2月には、十分な説明の機会を与えられないまま、上位会議体である「組合会」にて20対21で否決された。
なお、脱退方針の理由となった健診受診率はこの間も改善されてこなかった。健診を受けられる体制を整えて欲しいといった要望は聞き入れられず、脱退は拒否されるという、袋小路といってもいい状況になったのだ。
健保組合の反対の理由は、アダストリアが抜けてしまうことで保険料が徴収できなくなり、KF健保の財政に影響が出るというもの。さらに脱退を反対する理由として持ち出されているのが、〈KF健保の歴史〉だ。
KF健保の議事録には、〈コンサル会社が入って、単一健保組合設立の営業をしているのがかなり見られ、当組合が断固拒否する先例となるべき。また、当組合は長い歴史があり昭和28年設立以来60年以上の健保組合ということを考えると、脱退という前例を作られないようにこだわるべきである〉との意見が記されている。
アダストリアとKF健保の対立は深まっている。アダストリアは、KF健保が組合規約や財務関係の書類を開示しないことを理由として、東京地裁に文書開示の訴訟を提起し、現在も争われている。
こうした状況もあってか、アダストリア以外の大手アパレルも脱退に向けた動きを模索し始めた。脱退を検討しているという大手アパレル大手幹部はいう。
「元々、KF健保のファミリー向けのイベントや、サービス内容にミスマッチ感を感じていましたが、一番驚きなのは、アダストリアさんが3年にわたり脱退できないということです。今の時代、どのようなサービスや契約でも、辞める仕組みというのがあるのに、自由に脱退できないという状況に強い違和感があります。自社健保を作るなら、婦人科健診の負担率を下げるなど、もうすこし若年女性のニーズに沿った内容になればいいと思っています」