痛みを伴わずしっかりした頭と体のまま生きることを全うしたい――そんな渇望と衰えることへの恐怖が橋田さんの足を動かし続けたのだろう。しかし、橋田さんを「生きるための努力」に駆り立てたのは恐怖心だけではなかった。
「定期的にクルージングに行くことが運動を続けるモチベーションだとよく語っていました。好奇心が強かったから船上で出会うさまざまな人たちの身の上話を聞くことが何よりも楽しみだったそうです。だけど、1回2000万円近くかかるから、『仕事はお金のため』なんて冗談めかしておっしゃっていた(笑い)。だけどもちろん、作品作りに手を抜くことは一切なく、『二度と戦争を起こしてはいけない』という思いを強く持ち、同時にドラマを通して世の中のことを伝えていくという使命感の強いかただった。最期まで創作意欲を失うことはありませんでした」(TBS関係者)
重要な仕事や旅行の前は、ある「ルーティン」も欠かさなかった。熱海市内の來宮神社で宮司を務める雨宮盛克さんは、橋田さんが熱心に参拝する姿をたびたび目撃していた。
「一度、こちらを参拝した後に行った海外旅行で乗り物に乗り遅れ、運よく事故を逃れたことがあり、それ以来旅行前やドラマ開始時には必ずいらして、ご神木の大楠を1周して行かれました。ドラマの制作発表をこちらで開いたこともあります」
こうした「生涯現役」の働き方は、認知症のリスクを無意識に遠ざけていたようだ。
いのくちファミリークリニック医師の遠藤英俊さんが解説する。
「働かず家に閉じこもって人との交流がなくなると、記憶や学習などを担当する脳の前頭前野が活性化されず、認知症のリスクが高まります。仕事がなければ家の外に出る機会も減り、運動不足になることも認知症の一因に。実際、定年後に発症するケースは少なくない。どんな形であれ、働き続けて社会とつながることが、認知症を遠ざけて健康長寿を体現する大きな対策なのです」
※女性セブン2021年4月29日号