加藤一二三九段(写真/共同通信社)
将棋盤を挟んで熾烈な戦いを繰り広げた2人。兄弟弟子という距離感も微妙だ。当時の将棋界の様子を伝える河口俊彦七段の著作などには、両者の仲は決して良くなかったと記されている。
だが、加藤九段はきっぱりと否定する。
「2人がお互いの悪口を言っているのを聞いたことは一度たりともありません。そもそも将棋は相手がいないと成立しないですし、戦った後には『感想戦』という検討をします。真理を追究した間柄は、本質的に仲が悪くなりません」
升田は1991年に73歳で死去した。『升田幸三物語』(東公平著)にこんな記述がある。
「通夜の場に、まっさきに駆けつけた棋士は大山康晴だった。『升田さんと私のつき合いは、奥さんより長いんですからね』と言ったそうだ」
取材・文/大川慎太郎(フリーライター)
※週刊ポスト2021年4月30日号