それでも、やはり長年の視聴者としては複雑な感情があるようだ。ドラマウォッチャーの明日菜子氏は、素直な本音を吐露する。
「2018年7月期の『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』以降、月9で1話完結型のドラマが主流になりました。『監察医 朝顔』は月9のイメージを覆すヒューマンドラマとして高い評価を得ましたが、法医学者の朝顔が死の真相に迫るストーリーそのものは、近年の月9の流れを汲んでいます。現在放送している『イチケイのカラス』も、裁判官が事件介入する目新しさはあるものの、話の切り口は同じ。他にも弁護士や放射線科医など、主人公の職種をコロコロ変えているだけの印象を受けます。小説や漫画の実写化が続いているのも特徴ですね。
1話完結型のドラマは途中からでも話が掴みやすく、視聴のハードルが格段に下がります。目的が明らかな医療ドラマや刑事ドラマになると、限られたターゲット層を超えて幅広い世代にも好まれやすい。『絶対零度』以降は初回視聴率2桁をマークするようになり、かつての低迷期は抜け出したようにも見えます。
しかし、安定した記録は残せても“記憶”に残るドラマは少ないのではないでしょうか。『コンフィデンスマンJP』(2018年4月期)は平均視聴率8.9%と苦戦したものの、映画版は好調で、昨年公開された映画第2弾は興行収入35億円の大ヒット。根強い人気があることを改めて証明しました。ドラマ界を牽引していた頃のような意欲あふれる作品を、令和の月9枠にも期待したいです」
安定した「記録」を残す作品だけでは、目の肥えたドラマファンたちには物足りない。かつての民放の雄として、次は「記憶」に残る作品を生み出そうとするチャレンジが必要なのではないだろうか。
●取材・文/原田イチボ(HEW)