人間の脳を作っている細胞は大きく分けて、ニューロン(神経細胞)と、グリア細胞(神経膠細胞)の2つある。
ニューロンは互いに情報を伝え合うネットワークで結ばれている。その数は1000億個以上と言われており、それぞれのニューロンには樹状突起と呼ばれる突起が複数突き出している。ニューロンは、数個から数万個の他のニューロンと樹状突起でつながっている。
一方、グリア細胞は、ニューロンと同等か、それ以上の数があるとされる。
複数あるグリア細胞のなかでも血管とシナプスとをつなぐアストロサイトは、ニューロンのエネルギー源であるグルコースをニューロンに供給したり、シナプス伝達の際に放出されるグルタミン酸をニューロンが利用できるかたちに再構成したりするなど、脳にとって重要な役割を担っている。
ニューロンとグリア細胞との比は、ニューロン1に対してラットなどのげっ歯類0.3、鳥類0.4であるのに対し、ヒトは1.3。複雑な脳を持つ生物のほうがグリア細胞の比率が高い。
かのアインシュタインの脳は、一般の人の脳に比べ、グリア細胞の数が2倍ほども多い部分がいくつか存在しており、その部分がいわゆる「ひらめき」に関係する部位だったことが発表されて話題になった。
記憶や学習がはかどる良い状態とは、ニューロン同士の情報伝達が効率的に働き、柔軟に変化している状態を言う。逆に、もの覚えの悪い状態は、脳内の変化が乏しい状態と言える。
しかし、『脳を司る「脳」』(講談社)の著者で、お茶の水女子大学理学部生物学科・毛内拡助教は「脳は何歳からでも変化できます」と断言する。
たとえば、目新しい刺激や感情が動かされるような体験をするとアストロサイトが活性化し、ニューロンの伝達効率を良い状態に導く支援をすると考えられている。
脳の不思議なところは、IQ(知能指数)の高い人は、神経突起の密度が低く、枝分かれも少ないこと。これは、無駄な接続が少なく、回路が効率的に機能していることを示唆している。意外なことに、頭のいい人の脳の神経回路は、シンプルな構造になっているのだ。
※週刊ポスト2021年5月21日号