事業はどれも「ベスト・エフォート型」
それにしてもなぜイーロンは、「(火星に行く旅の途中で)たぶん、多くの人が死ぬだろう」と不穏な発言をしたのか? 理由は、イーロンの事業はどれもがベスト・エフォート型だからと筆者は考える。
ベスト・エフォート型とは「最善を尽くす。だが、保証はしない」というものだ。PCの世界ではお馴染みで、インターネット回線もソフトウエアもベスト・エフォート型だ。「うまく機能しなかったら、もう一度やり直して下さい。その代わり料金は安いですよ」ということ。テスラの自動運転オートパイロットも、ある意味でベスト・エフォート型だ。
「命が係わる自動車の世界に、ベスト・エフォート型を持ち込むとは言語道断だ」と立腹する人もいるだろう。
だが、使う人は、うまく機能しなかった場合に備えてハンドルに手を置いておくだけでオートパイロットは目的地へクルマを運んでくれる。万が一の時は、運転手がハンドル操作を代わればいい。ベスト・エフォート型のサービスは上手く使えば、桁違いの利便性が安く手に入る。
イーロンが進める宇宙ロケットも火星旅行も、荒っぽく言うとベスト・エフォート型だ。「最善はつくしますが、最悪の時は死にますよ。それを覚悟で宇宙船に乗ってください」ということ。嫌なら、ロケットに乗らなければいい。
イーロンが言った「火星旅行は多くの人が死ぬ」というのは宇宙ロケットでは「必要な覚悟」だ。ところが、世間がそのことを忘れているようだから、敢えてクギを刺しておいたと筆者は見ている。
歴史を見れば、飛行機が登場した時は、乗る人はみんな命がけだった。南極探検に行く人も全員が命がけだった。しかし今は、誰でも飛行機に乗り、高齢者でも南極に行く。