ライフ

【書評】『ドローダウン』地球温暖化の解決策をランキング形式で紹介

『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』編著・ポール・ホーケン

『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』編著・ポール・ホーケン

【書評】『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』/ポール・ホーケン・編著 江守正多・監訳 東出顕子・訳/山と溪谷社/3080円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 ここ十数年のうちで“地球にやさしい”が流行のスタイルになってか、環境問題への意識は世界的にもずいぶん高まってきた。

 しかし日々なにかしらを消費し、モノを食べるわれわれにとって「食料の生産から流通、消費までの諸産業の相互関係からなるフードシステムは精巧で複雑」ゆえに無意識のなかにある。そこに「私たちが食べるものは、エネルギー供給分野と並んで地球温暖化の原因の第1位」という現実が加われば、レジ袋廃止にどれほどの意味があるのかと思えてくる。

 本書のタイトルでもある「ドローダウン」は、「温室効果ガスがピークに達し、年々減少しはじめる時点」をさす気候科学用語だ。2050年には人口が97億人に達すると予測されているが、それまでの30年で温暖化の「逆転」をめざすのがはじまりだった。

 22カ国の70人の研究員が導く「解決策」を、さらに120人の各分野の専門家からなる諮問委員会が検証して「データの正確性、信頼性、最新性」を裏打ちした。結果、多岐にわたる「実現性の高いシナリオ」をランキング形式で100パターン生み出すことになった。インパクトと実現性を重視したこのリストが、とてもよい。

 総合1位は「冷媒」つまり冷蔵庫やエアコンに使用されるフロンガスの改善、2位は風力発電、3位は食料廃棄の削減と予測どおりだが、6位「女児の教育機会」、7位「家族計画」が上位にあるのは、温暖化が、世界の貧困地域において女性がこうむる劣悪な労働環境と、「避妊する手立てがない」ことによる人口問題とが複雑にからみあっているからだ。

 改善には、「地球温暖化を逆転させるのにいくらかかるか?」というコストがキーとなるが、プロジェクトメンバーは明言する。

「環境再生は環境破壊より多くの雇用を生み出します。未来を奪うのではなく、未来を修復する経済を実現するのは、まったく難しいことではない」

 環境問題に対する集合知の答えがここにある。

※週刊ポスト2021年6月11日号

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン