雨の中、浅草寺の五重塔や本堂などを「東橋」から望む、と題された浮世絵『東都名所浅草金竜山下東橋雨中望』(1840<天保11>年)は、初代歌川広重の作品。この浮世絵をたよりに“歴史探訪東京さんぽ”へ出かけよう。
「東橋」とは現在の吾妻橋のことを指している。川に面したところには料亭が並んでおり、人々が雨の中で食事を楽しんでいる様子が描かれている。現在の吾妻橋付近から、浅草寺方面を望んでも、高層ビルに囲まれて、浮世絵と異なり浅草寺は隠れてしまっている。
「この浮世絵が非常に珍しいと感じるのは、川に面したところに砂地が描かれていることです。水害が起こればすぐに流れてしまうような環境ですが、当時の隅田川の沿岸には、こんな光景が広がっていたのだろうか、という想像をかきたてます」(岡田美術館・小林忠館長)
言わずもがな、浅草寺は都内最古の寺院として知られる。参道の仲見世通りには約90軒の店が建ち並び、年間の参拝者は約3000万人という都内屈指の観光スポットだ。
※週刊ポスト2021年7月2日号