「自分もまだまだです」と謙遜する方正は、弟子・柳正の誕生を「ライバルが一人増えた」とも言う。
「テレビに出ていた時はひな壇にライバルがいたんですよ。つまり他人がライバルだった。けれども落語をやり始めてから、自分自身がライバルになったんです。それで弟子を取ってみたら、ライバルがもう一人増えたと思うようになった。『こいつに凄いって思わせなあかん』と。
それは子供と一緒ですよね。僕は子供が3人いるんですけど、教育するときに使う言葉は言霊になって自分にも返ってくる。『自分もこれを絶対にせなあかん』と思うんです。だから弟子を指導しつつ、実は自分自身に向けて言ってることもあるんですよね。それはエネルギーにもなります。
声とか仕草とか雰囲気を見ると、柳正は僕とは違うタイプの落語家になるだろうなと感じています。例えば志ん朝師匠がよくやるような江戸の噺家に特有の喋り方、あれは上方の噺家はあんまりやらないんですけど、そういうのも取り入れるとすごく良い噺家になっていくと思いますね。柳正は滑舌がとてもよくて、スピード感があるので」(月亭方正)
「落語と出会って人生が変わった」という方正は、「師匠に命をいただいたので、それは受け継いでいきたい」とも語る。月亭柳正を皮切りに、数多くの弟子を輩出する名門として師匠・月亭方正が活躍する日もそう遠くないのかもしれない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)