トヨタの報酬体系とは異なるソニーの特異性
もう一つ、ソニーGの役員報酬の特徴は、社長とそれ以外の格差の大きさだ。ソニーGの役員で2番目に報酬を得ているのは十時裕樹副社長だが、金額は3億1300万円。吉田氏の約4分の1だ。3位は勝本徹副社長で2億3600万円と5分の1になる。
河合社長がランキング9位に入った東京エレクトロンと比べると、ソニーGの特異性がよりはっきりする。
東京エレクトロンの場合、河合社長に9億200万円に次ぐ佐々木貞夫取締役で4億7800万円。さらに3億4800万円から3億8400万円の間に6人の役員が入っている。会社が得た利益を大勢の役員で分け合う、ある意味日本的な分配方法だ。
名実ともに日本のトップ企業であるトヨタ自動車も、外国人役員を除けば格差は小さい。最上位は豊田章男社長で、報酬額は4億4200万円。次いで内山田竹史会長の2億2200万円、社長のほぼ半分だ。そして1億3000万円~1億4000万円の間に3人の役員が入る。
ただし豊田章男氏は、株式配当で14億5000万円を受け取っているため、一概には比較できないが、すくなくとも役員報酬にかぎれば、極力、差をつけない方針であることがわかる。
ソニー発の役員報酬格差が広がる可能性も
「ソニーモルモット論」とは評論家の大宅壮一が「ソニーはモルモット。新しい製品を送り出すが、すぐに東芝などの大手にシェアを奪われる」という意味で使ったものだ。しかしソニーは、むしろモルモットであることを誇りとし、新しい製品を世の中に送り出し続けた。
これは製品だけでなく経営システムにも当てはまる。ソニーが日本で初めてカンパニー制や執行役員制を取り入れたのは1990年代のことだ。当初は奇異な目で見られたが、やがて多くの企業に広がっていった。取締役会の中に報酬委員会や指名委員会を設置したものソニーGが初めてで、今では委員会設置会社は会社法にも盛り込まれている。
このように、ソニーGが始めたことがいつの間にかスタンダードとなることはこれまでにも何度もあった。その意味で、経営トップの責任を明確化し、トップとそれ以外で役員報酬に大きく差をつけるというやり方も、今後のソニーGの業績が良ければよいほど、広まっていく可能性はある。
●文/関慎夫(雑誌『経済界』編集局長)