国際情報

内戦のミャンマーで拘束された邦人記者が綴る「刑務所で過ごした1か月」

軍の装甲車の前で「3本指」を立ててクーデターに反対の意思表示をする北角さん (写真/北角裕樹さん提供)

軍の装甲車の前で「3本指」を立ててクーデターに反対の意思表示をする北角さん (写真/北角裕樹さん提供)

 いま、ミャンマーでは約半年間で市民約900人が亡くなっている。原因は、新型コロナウイルスではなく自国の軍による弾圧。現地ジャーナリストの北角裕樹さんが取材、そして実体験したミャンマーの現実を伝える。

 * * *
 こんな深夜に人が来るのはおかしい。大きくなるノックの音に異変を感じながら、意を決してドアを開けると、暗闇の奥で「POLICE」と書かれたステッカーが光った。ライフル銃を持った重武装の警察官ら7、8人がどかどかと部屋に入ってくる。リーダー格の私服姿の軍人は用件も告げず、「しゃべるな、座れ」と短く言い放ち、警察官に指示して家宅捜索を始めた。
 ミャンマーではいま、警察は国軍の指揮下にある。獲物を追いつめる狩りをしているつもりなのか、彼らはひどく興奮していた。部屋から軍を批判するビラを見つけると、「これは何だ。読んでみろよ、ほら」と私に顔を近づけ、不気味に笑った。

 後に、その軍人は政治犯らを取り締まる諜報部門の将校であるとわかった。これが約1か月の刑務所生活の始まりだった。4月18日夜に逮捕された私は、政治犯収容所として悪名高いインセイン刑務所(ヤンゴン)に連行された。

市民に自動小銃とロケット砲を撃った

 私は2014年にミャンマーへ拠点を移し、ジャーナリストとして活動してきた。今年2月1日に国軍が起こしたクーデター以降のミャンマーの状況は、私が見てきた中で最もひどい状況にある。私自身も、この状況下で2度逮捕された。

 今回、国軍はアウンサンスーチー国家顧問(76才)らを拘束し、クーデターを起こして、国家運営の全権を握った。昨年の総選挙に不正があったことが理由とされたが、自分たちの選んだリーダーを拘束した国軍に市民らは当然ながら大きく反発。若者たちは街に繰り出し、2月中旬には数百万人規模のデモに発展した。

 2月下旬、国軍側が本格的なデモ制圧を始めた。バリケードを築いて抵抗する市民に対し、自動小銃やロケット砲を用い攻撃。夜間に地域を囲んでデモ隊の逃げ道を絶った上で片っ端から家宅捜索を行うという強引な取り締まりも展開された。捜索して目当ての人間がいなければ、代わりに親や娘を連れ去った。

 現地メディアは報道免許をはく奪され、次々と記者らが逮捕されていくので、そうした実態は詳しく報じられていない。これまでに約900人が弾圧で死亡し、累計で6500人以上が拘束されたとされる。

 旧都ヤンゴンに展開した軍人や警察官の素行は最悪だった。食事を届ける自転車宅配業者は、たびたび軍や警察の「カツアゲ」に遭い、現金やスマホ、そして配達中の弁当が奪われる。私の行きつけの喫茶店も、“デモ隊がよく使っているから”と難癖をつけられ、ケーキの陳列ケースなどが割られ、スタッフが連行された。一般市民も攻撃対象となり、夜間にパトロールする軍人らは、パチンコを使ってアパートの窓ガラスを次々と割って回り、住民を震え上がらせた。

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン