ワクチンをきかっけに集ったセミナーの話題は、なぜか仮想通貨などだった(イメージ)
九州在住の会社員・中里正さん(仮名・50代)も、コロナワクチンをめぐる女性上司(50代)の突飛な言動に、ほとほと困り果てている一人。
「ある時から、コロナは風邪と同じで、ワクチンも打つべきではない、と言い出し始めました。どうやら、ハマっているSNSからの影響のようでした」(中里さん)
上司のSNSを覗くと、毎日のように他人の書き込みをシェアしているらしいことがわかったが、そのすべてが「コロナは風邪」そして「反ワクチン」に関するもの。さらに、シェアしている投稿主のうち数人が「新世界秩序」のためにというよくわからない理由を挙げ、既存の通貨にかわる新たな仮想通貨への投資を呼び掛けていたという。
「明らかに詐欺だと思い上司に進言しましたが、聞いてくれないどころか、すでに仮想通貨の購入権を『購入』していたようでした。実は以前にも、東南アジア向けのSNSに広告を出す権利を買えば儲かる、などという詐欺に上司は騙されたことがあります。コロナ禍以降は中国に関する陰謀論を説き出し、コロナに関する本を何冊も読み始めたのですが、ほとんどが同じ著者のもので、何冊も買っては人に配り始めるんです。私たちはあきれているだけですが、嘘情報をまき散らすのはちょっと……」(中里さん)
管理職になっているのだから、仕事のうえでは落ち着いた判断ができる人なのだろうし、それなりに人望もある。しかしなぜかSNSで得た情報は、根拠が薄くても信じてしまうようだ。
そして取材を進めていくと、富田さんの姉や中里さんの上司が参加するセミナーを取りまとめている男性・X氏の存在が浮かび上がってきた。彼女たちが関わったセミナーは、コロナワクチンがきっかけとはいえテーマは健康関連と仮想通貨、まったく異なるジャンルだったのだが、このX氏はセミナーを運営する団体のうちの一人と見られる。
実はこのX氏、コロナ以前から九州地方で主婦を対象にしたセミナー、コーチングビジネスを展開していた自称・実業家。筆者は以前、主婦への勧誘方法や、主婦から少なくない額の金銭を巻き上げている実態を取材し、記事にしたことがあった。参加者から聞いた話を総合すると、セミナーでは「女として今一度輝こう」など主婦の不安を刺激しながら応援するという態度で取り込み、そのセミナーに馴染んでからは、マルチ商法などへ誘導するのが手口のようだった。
題材が「ワクチン」なだけで、結局、今回も似たような手法で参加者を信用させて取り込んで利用している。よくわかっていない事象をあげつらい、人々の不安な心につけ込んであおり、商売につなげようとしているだけなのではないか。
筆者が取材を通じて感じたのは、彼らがSNSなどで発信・共有しているデマや真偽不明な情報の中身に、ある意味で一貫性がある、ということである。その一貫性とは、正しい情報を発信し続ける、真実を人々に知らしめたいといった思いやりからくるものではない。「金」や「利権」を追求し続けるブレない姿である。だから、彼らが拡散を狙う「デマ」は、実に冷静に分析された、ほどよく広がりやすい、信じる人が一定数は出そうなものばかり。気軽に信じられる、それでいてなんとなく理に適っているようにさえ思われるデマだ。