初めて人を「好き」と思ったのは4、5才のとき。相手は女の子で、男子に心を動かされたのは小学校高学年になってからだ。ここまではよくあることらしいけど、私に興味を持つ人がちょっと変わっている。

 高校では内股で歩く男の子からラブレターをもらっているし、40才になったばかりの頃は、男性から女性に性転換しようとしていたデザイナー氏から交際を申し込まれた。「あなたから断られたら、もう女子を恋愛対象にするのはあきらめる」と言って。

 キツネにつままれたようだ。というのもデザイナー氏が男性だったときには、仕事で会うたびにものすごい扱いを受けていたからだ。ギリギリの時間で仕事を受けたくせに、小さなミスを突かれて、「こんなことではあなたとは仕事ができない」と脅かされた。

 その恨みつらみを本人にぶつけたら、「好きだからいじめた。ごめんなさい」と謝ったけど、しかしミニスカで濃いめの化粧をしている彼と私はどんな交際をするのか。好奇心はわいたけれど、抱き合う気にはなれなかった。とはいえ、人はまるで可能性のない人を口説いたりしない。私自身に男女では割り切れない何かがあったのだと思う。

 長い人生、こっそり交際した男やセフレもどきがいたこともあるけれど、線香花火で、ほとんどの時間、女友達といるか、ひとりでいるか。

 その長い長いひとり暮らしがこじらせたのだと思う。私の中に男性だけでなく、少女まで居座ってきた。どういうことかというと、たとえば、においのいい石鹸に包まれて、手芸をしながら、ふわふわのスポンジケーキを焼いたりする乙女の私が、次の瞬間、立ち膝に冷や酒のオヤジの心境になる。それがなんの違和感もなく自由自在に行き来する。そんな私をどう分類したらいいのかわからないけど、それでも自分の居場所はちゃんと見つけている。

 たとえば、私の住んでいる秋葉原。なにせ人間の男女にはまったく興味を示さず、アニメのキャラクターに恋心を持つ男同士、女同士が、肩寄せ合って楽しそうに「恋話」をして歩いている。ひらひらのメイド服を着た、体重100kg超えのごっつい男性が、すね毛を出して歩いていても誰も振り向いたりしない。なんでもありで、なんでも来い。

 とはいえ、コロナ禍で人と会わなくなったからか加齢のせいか、最近、男女がどうとかいうのはどうでもよくなってきて、気持ちはこの世の見物人。日々の出来事を他人事として見るようになってきた。

 そんな私にユニクロのCMは、あらぬ方向から来し方を問いかけてきた。誰かと生きるか、ひとりで生きるか、さぁ、どうする。先の見えないいまだからこそ、変化球が胸に届いたのかもしれない。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2021年7月29日・8月5日号

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