騎一郎さんを抱く富三郎さん(写真は騎一郎さん提供)

騎一郎さんを抱く富三郎さん(写真は騎一郎さん提供)

 俺は親父の最期に会えなかったけど、葬式で山城新伍さんに肩を叩かれて「これは決まっていた運命なんだぞ。実はな、勝さんと俺とマネージャーしか知らない話でお前たちには言わなかったけれど、心臓のバイパス手術は成功したけれど、そこから余命は3年と言われていた」と言われた。なんで教えてくれなかったのかと聞くと、「お前たちに教えると、おやっさんにバレるから」と。

 もう一人、肩を叩いてくれたのが山下耕作監督で「これは遺言じゃないんだけれど、ずっと富三郎が悩んでいた。『息子が俺の弟子になって、俺はこの子にどう接していいのかわからない。息子だからと甘やかしては駄目だから人より厳しくしているけれど、止まらなくなる。会うと苦しい』って」と、親父の言葉を伝えてくれた。

 それまで母との離婚に触れることもなかったのに、晩年に一度だけ、親父に真顔でこう言われたことがあった。

「お前な、何も離婚したのは俺だけが悪いんじゃないんだ」

 俺は小さい声で「はい」としか言いようがなかったけれど、それが親父の最期の言葉だったと思う。その日だけはいつものように先生と呼んだら「お父さんと呼べ」と怒られた。

 後々になって、その親父の最期の言葉は、“お前は俺の息子だぞ”と言ってくれたんだと思うようになった。

 来年は親父の30周忌。いろんな人が親父の話を大切にしてくれて、縁がつながって俺に親父の言葉を伝えてくれた。親父の言葉は、今も胸の深いところに響いている。

※週刊ポスト2021年8月13日号

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