その後、「父親が生きていたとして聞きたいことはあるか」という質問が投げかけられる。

「聞きたいことといえば──」と一度考えたうえで、正和はキッパリとこう答えていた。

「いや、ないでしょう」

 その理由について、次のように語っている。

「果たして親父が今この世界に生きていた場合、今の芸能界の考え方についていけるかどうか。たぶんついていけないでしょう。だから、今の芸能界のことは俺はわからんから、正和お前は好きなようにやれ。そういう形じゃないかしら。

 まっっったく(大きな強調)親父の考え方では今の芸能界には通用しないと思いますね」

 阪東妻三郎は戦前、未熟だった時代劇の表現を開拓し、自ら映画製作にも乗り出している。そうした一人一人のスターの創意工夫が尊ばれた草創期と、スターといえども巨大な「芸能界」という産業の中の一部でしかない現在。自分はその現在を生き抜いている──。そんな強い意志とプライドを感じとることのできる「言葉」だった。

【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2021年8月13日号

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