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手指のアルコール消毒はどこまで有効か ウイルス学の権威が問題提起

“アルコール消毒”の有効性とは?

アルコール消毒の有効性とは?

「大型ショッピングモールに行くと、入り口やエレベーターホールなどあらゆる場所で手指のアルコール消毒を求められます。直前に別の場所で消毒したばかりでも、店員が『ご協力を』と言うのを無視するわけにもいかず……。1時間ほどの滞在で5~6回は消毒液を手に吹きかけますよ」

 都内在住の60代男性はそう嘆息する。

 新型コロナの感染拡大で日常生活に定着した対策は多いが、街中のさまざまな場面で目にする“アルコール消毒”は本当に有効なのだろうか。

「現在の日本社会には、これまで明らかになった新型コロナウイルスの正しい知識や理解を欠く無意味な“対策”が蔓延しています。その代表格が、身の回りにあるもののアルコール消毒です。あらゆる施設の入り口に“関所”のように手指の消毒液が置かれていますが、これらは(対策をきちんとしているのだと見せる)“アリバイづくり”のようなもの。感染コントロールにはほとんど役に立ちません」

 そう喝破するのは、近著『もうだまされない 新型コロナの大誤解』が話題の医師・西村秀一氏(国立病院機構仙台医療センター・ウイルスセンター長)だ。

 西村氏の専門はインフルエンザなどの呼吸器系ウイルス感染症。昨年2月、停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で流行が起きた際は、臨時検疫官として船内に立ち入った経験を持つ。現在も新型コロナ感染症の最前線で闘う、ウイルス学の権威だ。

 西村氏が指摘する「アルコール消毒が感染防止に役立たない理由」を知るには、新型コロナの感染メカニズムを改めて理解する必要がある。

「そもそも新型コロナウイルスはインフルエンザ同様、粘膜細胞で増殖する呼吸器系ウイルスです。これら呼吸器系ウイルスで感染リスクが最も高い行為は、ウイルスを鼻や口から吸い込むこと。空気中を漂う飛沫や飛沫核(エアロゾル)に含まれるウイルスを吸い込み感染することを、エアロゾル感染、あるいは空気感染と呼んでいます」(西村氏)

 人が吐き出すウイルスは咳やくしゃみに限らず、呼吸や会話などに際して常に排出されているという。その一方、コロナでは「接触感染」のリスクがあるから手指などの皮膚を消毒すべきという話もよく耳にするが……。

「そもそもウイルスが皮膚から感染することはない。接触感染は、ウイルスが付いた手で鼻腔の奥の粘膜に直接塗り付けるような行為をしない限り、まず起こりません。また、自ら増殖する細菌と異なり、宿主の細胞中でしか生きられないウイルスが物の表面で増え、感染力を持つようになることは、その性質からして考えられないのです」(同前)

肌のバリア機能を破壊

 図書館の本を1冊ずつ拭くなど、人の手が触れるものを片っ端から消毒し“感染対策”とするケースは少なくないが、これも意味を見出せないものだと西村氏は指摘する。

「外で買い物した商品や宅配便で届いた荷物を消毒する人もいますが、そこまで気を遣う必要はない。テーブルや椅子、ドアノブなどのアルコール拭きも同様です。

 むしろアルコールの消毒効果は表面のホコリや汚れを落としてからでないと発揮されず、手洗いや水拭きのほうが重要になる。しかも水で洗い流したり拭き取ったりするだけで、たとえウイルスがいたとしてもほとんど除去され、そこからの感染リスクはなくなります」

 感染対策として、日々“アルコール拭き”を課せられている従業員が聞いたら力が抜けてしまうかもしれない。が、これが西村氏の見解だ。

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