◆直木賞受賞作
『星落ちて、なお』
澤田瞳子/文藝春秋/1925円
今期は直木賞も2作。例えるなら“今頃ですか!?”と“なぜ大紛糾!?”。本書は前者だ。錦絵、美人図、山水図と自在に描き分けた「画鬼」こと河鍋暁斎(天保2年~明治22年)。その父に絵師になるよう仕込まれた娘とよ(暁翠)を主人公に、父の軛から自由になれなかった家族の消長を描く。実在の人物ばかりで、歴史小説であり評伝小説でも。『若冲』とともに、実力派著者の代表作に。
『テスカトリポカ』
佐藤究/KADOKAWA/2310円
著者は“原始の声”を描くのが本当に巧い。メキシコ人の母と極道の父との間に生まれたコシモ少年。メキシコ麻薬密売組織の抗争で4兄弟のなか唯一生き残ったバルミロ。バルミロは日本人心臓外科医と組み、幼児の臓器売買ビジネスを日本で始める。そこに意図せず加わるコシモ。選考会で暴力描写が大激論に。男性選考委員は忌避、女性選考委員は支持。この逆転も刺激的。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年8月19・26日号