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50歳の羽生善治「大事なことは自己評価と周囲の評価の一致」

1996年に史上初となる七冠を達成した(写真/共同通信社)

1996年に史上初となる七冠を達成した羽生善治(写真/共同通信社)

 現在の将棋界での〈天才棋士〉といえば、藤井聡太二冠を想起する人も多いだろう。一方、1990年代以降の〈天才棋士〉といえば、前人未到の七冠独占を成し遂げた〈羽生善治〉のことだった。50歳を迎え、研究にAIを駆使する若手にタイトルを奪取されることが続く羽生は、「自分は昭和のアナログな時代から、テクノロジーが発達した現代までを体験できた。これは実はすごく幸運なことだったんじゃないかと思っています」と語る。そんな羽生は自身の現在地を、どう捉えているのか。将棋観戦記者の大川慎太郎氏がレポートする。(文中一部敬称略)

AIより強い棋士はいない

 羽生の先輩たちはいわゆる昭和の棋士で、現代からすれば「超アナログ」ということになる。彼らは人間味に溢れた勝負師だった。

 1990年に66歳で棋王戦に挑戦した大山康晴十五世名人は、羽生とともに史上最強の棋士に数えられる。また「ひふみん」こと加藤一二三九段は、2017年に77歳で現役を引退するまでパワフルな将棋を見せ続けた。35年以上のキャリアを誇る羽生も大ベテランの領域に入りつつある。いまだからこそ、偉大な先輩棋士たちに対して思うことはあるはずだ。

「とにかくエネルギッシュですよね。例えば加藤先生は、引退されてもまだまだ力が有り余っている感じです。大山先生とは10局ぐらい対戦しましたけど、あまり本気で指されておらず、常に余力を残されていた感じはあります。人間は年齢を重ねるとだんだん枯淡の境地というか、淡泊になっていくものだと思います。それはもちろん悪いことではないでしょうけど、そこをどうやって踏み留まって頑張れるか。内的エネルギーみたいなものを保ち続けることが大事なのかもしれません」(羽生)

 若手時代に先輩の大棋士と対戦する際には「貫禄や迫力を感じました」と羽生は語る。当時の将棋界には、人生経験の厚みが将棋の強さにつながるという価値観もあった。

 いまの若手棋士だって、羽生と対戦する時は同じようなことを感じているのではないか。ところが「自分はそういう威厳みたいなものはあまり持っていないと思います」と羽生は言う。

 羽生の先輩で、かつて名人戦で激闘を繰り広げたことがある森下卓九段(55)はこう語る。

「羽生さんの世代が、将棋を盤上だけの勝負にしたんです。盤外での人生経験などは関係なく、盤上の技術がすべてなんだ、と。だからその後の若手棋士は余計なことは感じずに、どんな大先輩が相手でもノビノビと戦えるのではないでしょうか」

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