故郷・熊本のミニシアターにアポなしで挨拶に行ったという(撮影:小倉雄一郎)
自主映画だからこその経験
オスカー退社後、フリーとしてリスタートを切った福田にとって、自主映画での撮影経験は大きな糧にもなったようだ。
「監督が一つ一つの段取りを『なんでこれはこういう風にしていたんだっけ?』とあらためて疑って、一個ずつ新しく構築していきたいと仰っていたんですね。それがフリーになって一から始める私にとっては、とても心に刺さる言葉でした。みんな特に確認しないでいつも当たり前のようにやっている作業を一つ一つ確認して、監督と密にやり取りしながら撮影を進めていったんです。
それは今まで事務所に所属しながらやってきた仕事とは全く違う経験でした。他にも、商業映画だと公開されるのが当たり前だという前提で撮影を進めていくんですけど、実際にはそうではなくて、やっぱり各映画館の方々の協力がないと上映できないですし、そもそもどこの映画館で公開できるのかもわからない。そういった、商業映画の世界では忘れられがちな視点に、新鮮な気持ちであらためて気づける時間になったなと思うんです」(福田沙紀)
今回初めて自主映画の撮影に臨んだという福田は、ミニシアターでのこんなエピソードも語ってくれた。
「地元の熊本にDenkikanというミニシアターがあるんですが、仕事で帰郷した時にアポなしで突撃したんです。最初はアポなしでいきなり行っていいんだろうかと思って躊躇していたんですけど、監督に相談したら『大丈夫ですよ! みなさんよくフラッと行くんで』と言われて(笑)。
それで菓子折りを持って行って、『ご挨拶させていただいてもいいですか』とチケット売り場の受付の方に話しかけたら、事務所に案内されて。Denkikanのスタッフのみなさんに『公開していただいてありがとうございます、よろしくお願いします』と挨拶しました。そういう体験も初めてだったので、こうやって映画が出来上がっていくんだなということをあらためて実感することができました。
当たり前のことに気づいたり新しいことを学んだりする時間はかけがえのないもので、『シュシュシュの娘』は自分にとって一生忘れられない作品になるなと思いました。先日のプレミア試写会での舞台挨拶の時の光景を見ても、これからの人生でこの景色は忘れることができないなと感じたんです」(福田沙紀)