この時2人は結婚10年目を迎えていた。「平和な状態でいることが嫌い」という勝の振る舞いは、常人には理解できないものだった。ある夜、京都の家に芸者10人ほどを連れてきた。平然としている玉緒に不満を感じた勝が昔の恋人に「これからおまえに会いに行くからな」と電話を掛けると、玉緒は頬っぺたをビンタした。怒りに震える妻を見て、勝は鼻血を出すどころか、こう声を掛けた。
「おッ、その顔、その表情だよ。いいか、忘れるな。そんないい顔を見せる女優はまだ日本にはいないんだぞ。(中略)殴るのはあとにして、とにかく鏡を見てこいよ」
玉緒は「私は一瞬ひるみましたえ。そのすきに、主人ははだしで逃げ出しちゃうんですから……」と修羅場を振り返っている。
『衝撃の告白』から5か月後、2人は葉山での家族旅行中に大喧嘩。8月17日に勝が一方的に離婚会見を行ない、2日後に仕事でブラジルへ旅立つ。帰国後、婚姻関係を続けると決め、別々に会見を行なった。
「おれは遊ぶだけさ。そいつがまるごと演技なのさ。酒飲みながら、疲れてあぶら汗が出てくる時だって、おれはにこにこ元気を装う。なぜっておれは勝新太郎だからさ。おれが勝新で、勝新がおれだからさ」
勝は1997年に生命が途絶えるまで生涯・勝新太郎を演じた。その伴走者は中村玉緒以外に考えられない。
構成・文/岡野誠
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号