発端は仏の教育実習仲間が相次いでテロを企てたこと。実習先だった〈慶特中学〉では、かつて成績による過度の分断が殺傷事件まで生み、犯人は仏が担当したクラスの元生徒だった。
その時の実習仲間のひとり〈砂見〉が優秀な若者を離島に集め、淘汰と峻別を図る国家事業の関係者だと知った里美は、参加者に選ばれたクロエとキャンプに潜入。島を地獄絵図へと陥れる事件が起きるのだが、そこにも仏の影が見え隠れして──。
「大量殺人や大虐殺のメカニズムを、より身近な職場なり学校に持ち込んだのが仏で、その手の資質を持つ人って結構いるもんなんです。誰々が悪口言ってたよとか、一言囁いて空気を操れるヤツが。
特に最近は普段怒らない人が怒ったり、社会全体が疑心暗鬼になりつつあるし、裏を返せば陥れたい標的を陥れやすい状況ともいえる。本当に怖い時代ですけど、怖いヤツも愚か者も一定数いた方が物書きには助かるというか、そういう存在が歴史や小説や映画を面白くしてきたのも事実なので」
陰謀論に走る人間心理も、隙につけ入る悪意の存在も、小説に書くことで日常化し、意識化し、エンタメ化する。そんな極めて今日的な試みは、仏と油炭の直接対決を描く第3弾へと続く予定だ。
【プロフィール】
七尾与史(ななお・よし)/1969年静岡県生まれ。地元・浜松で歯科医院を営む傍ら執筆した『死亡フラグが立ちました!』が第8回「このミステリーがすごい!」大賞の最終選考に残り、2010年に“隠し玉”として同作でデビュー。ドラマ化した『ドS刑事』シリーズや『山手線探偵』シリーズ、『バリ3探偵 圏内ちゃん』シリーズなど、数々の人気シリーズを持つ。5年前に歯科医を辞めて上京し、専業に。最近YouTubeも始め、映画愛、ゲーム愛を存分に発揮中。172cm、68kg、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号