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幼い頃の記憶から断筆宣言まで、ゲラゲラ笑えて深い余韻の残るエッセイを21編収録

「あれは(400字原稿用紙)50枚でしたか、1枚でもはみ出ては困るというのよ。ほとんど無名でしたからね。『小説現代』の大村彦次郎さんの好意で書かせてもらったんですけど、自分としては不本意なところもありました。

 だけど、直木賞取ったでしょ? 当時の金貸しにはいろんな人がいましたけど、その中にしょっちゅう電話してきては怒りまくる婆さんがいたのよ。私が直木賞を取ってテレビに出たら、5分とたたないうちに電話が鳴って、その婆さんがいままで聞いたことのないような猫なで声で、『おめでとうございます。よかったですねぇ、がんばってください』って。これで借金のとりはぐれはなくなったって、ほっとしたんでしょう、多分。それがとても面白くてね。元気が出たりしたものですよ。

 私は、人間の面白さを見つけることによって、普通なら泣きの涙で暮らすいろいろな悲劇を、悲劇とも思わずに通りすぎることができた。思えば、人の悪さのおかげでここまで生きてこられた気がします(笑い)」

 何でも面白がってしまうのが佐藤愛子の特質なのだ。

「結局、私には書くこと以外できることがほかに何もなかったんですよ。たとえば瀬戸内寂聴さんみたいに、多才で、何をやっても成功するような人だったら、別の方面に行ってたかもしれません」

 3年ほど前から、日記をつけるようになったと言う。

「私の肉体はもう、半死半生という感じで、昨日、飲むべき薬を飲んだかどうかも忘れるので、だから日記をつけ出したの」

 それを聞いて、エッセイもまた書いてほしいと思う人がたくさんいますよ、と編集者が言うも、「いや、そうでもないでしょう」とにべもない。

 これから何かしたいことはありますかという質問への答えは、「死ぬことです。何とかうまく死にたいものだわ」。とはいえ、「退屈で退屈で」とも言っておられたので、ここは執筆再開に望みをつなぎたい。

◆『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』
『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーになった結果、ヘトヘトの果てになり、ついに昏倒した顛末や、前作でも人気を博した佐藤さんの「勝手に人生相談」、北海道に別荘を建てた裏側にあった仰天エピソード、幼い頃の記憶から断筆宣言まで、佐藤さんが2019年2月~2021年5月まで女性セブンで気まぐれに連載した、ゲラゲラ笑えて深い余韻の残るエッセイを21編収録。
取材・構成/佐久間文子 撮影/江森康之

※女性セブン2021年8月19・26日号

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