「次に“技術”について。カバー曲はどうしても元の歌手の印象が残ってしまうので、『イメージが違う』と言われてしまうこともあります。けれどエライザさんが歌うと全く違う曲のように感じて、すぐに彼女の世界に引き込まれてしまうんです。それは特徴的な声が要因の一つですが、独特の世界観を感じさせる高い表現力も聴き逃せません。

 例えばエッジボイス(声帯を閉じて喉の奥で声を出す歌唱法)を使うことで切なさを表現したり、地声で出せる箇所であえて裏声を使うことで優しい印象をもたらしたり、少しハスキーな声を使ってロックっぽさを出したり。曲によっては声の色気も半端なく、思わずうっとりしてしまいます。

 こぶし(フェイク)を多用しているのも技術があればこそです。『SWEET MEMORIES』や『時代』では、『そこに入れるかー!』と唸ってしまうような想像もつかないところで入れてきます。『時代』のラストでためて歌うところも震えましたね。やはり俳優業もやられているので、自分の世界をしっかりと歌で伝える表現力が抜群なのだと思います」(いくみ氏)

 ところで池田エライザは、母がシンガーソングライターでモデルのリザ・ビリエーガス、祖父もギタリスト兼コメディアンと、音楽一家の出身でもある。幼少の頃から音楽が身近にあり、さらに天性の歌声も受け継いでいるのだから、プロ顔負けの歌唱力を持ち合わせていることも頷ける。エライザがテレビで初めて歌声を披露した時、母・リザはTwitterで〈私の声が半分きこえるのは私の子だから!〉ともコメントしていた。

 とはいえもちろん、音楽一家で育てば誰でも“良い音楽”を届けられるわけではない。過去の楽曲をチョイスできる豊富なリスニング経験や音楽番組『The Covers』のMCを担当する中で培った柔軟な感性、あるいは俳優業や映画監督から趣味の読書まで、さまざまな活動を血肉化して“良い音楽”として表現することは彼女の実力に他ならない。

「Close to you」(カーペンターズがカバーしたあの名曲だろうか)をどのように歌い上げるのか、ELAIZAの今後に要注目だ。

◆取材・文/細田成嗣(HEW)

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