冠状動脈には番号がある。5番とは左冠動脈主幹部のことで、ここが詰まると突然死、ショック死の危険性もある。筆者は3番閉塞だったが、それでも痛みは「間違いなく死ぬ」という痛みだった。表現が稚拙だが、「間違いなく死ぬ」という感覚が本当にあるなんて、それまで大病したことのなかった筆者は想像だにしなかった。それほどの痛みと、普通の眠気とは違う不気味に遠のく眠気だった。本能的なものか、寝ると死ぬと思った。
「そうした患者さんが年間3万人も命を落としているんです。心筋梗塞以外の心疾患を含めたら恐ろしい数です。コロナと一緒で誰もが罹る可能性があるし、今日明日死んでもおかしくないんです」
病床を空けておく理由
厚生労働省(2020年発表)によれば、急性心筋梗塞の死者は30,986人、その他の虚血性心疾患が36,738人、不整脈(電動障害含む)が30,986人でリウマチ性の心疾患なども加えれば年間10万人以上が命を落としている。これには急性心筋梗塞よりも急死の可能性が高いとされる大動脈解離も含まれる。筆者が一時懇意にしていただいた声優の鶴ひろみさんも大動脈解離だった。
「大動脈解離なんて即死もありえますから一刻を争います。循環器内科からすれば「コロナどころじゃない」なんです。患者さんご本人もご家族もそうでしょう。それは他(の科)もそうです」
1分1秒を争う患者は心疾患ばかりではない。たとえば脳外科なら脳梗塞(急性期)やくも膜下出血の患者が運ばれて来れば「コロナどころじゃない」だろう。救急科も交通事故や労災事故などで重傷ならば「コロナどころじゃない」だ。24時間365日、ありとあらゆる一刻を争う命の危険を受け入れ続けているのが医療機関、とくに救急指定病院である。それにコロナが加わった。
「ただでさえ感染症は病床の確保が難しいんです。感染症の病院を散々減らしておいて一般病院に押し付けられても限界があるんです」
国もまさか新型コロナウイルス感染症なんて未知の疫病が中国大陸からやってくるとは思わなかっただろうが(何度でも書くがコロナウイルスは中華人民共和国が発祥である)、看護師さんの言う通り、国は感染症指定医療機関を減らしてきた。かつては結核で多くの命を失った時代もあったが、ポリオやジフテリアと同様に日本国内ではほぼ克服されている。そんな削減方針のさなかをコロナ禍が直撃した。
「これ言わせていただいてよろしいですか? 私たちはできる限り受け入れています。でも限界があります。どこの救急指定病院も同じです。命の危険はコロナの患者さんだけではありません。だからこそ満床にはできないんです」