歳を重ねるごとに基礎疾患が増え、あちこちの病院にかかることで薬が増えていく――これは多くの人が「多剤処方」に苦しむ一因とされるが、理由はそれだけではない。
厚生労働省「社会医療診療行為別統計」(2020年6月)によると、1レセプト(診療報酬明細書)あたりの薬が「7種類以上」だった患者は、75歳以上では入院などの「院内処方」で18.8%、外来などの「院外処方」で24.2%を占めた。
高齢者ほど多剤処方が顕著になる現状を受け、銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏は、医師による「漫然処方」「知識不足」の問題を指摘する。
「忙しい医師ほど、短い問診で済ませて細かく診察せず、漫然と薬を出すケースが多い印象です。一部の慢性疾患の外来診察には“薬だけ出す”無診療処方に近い実態もある。また、何かあった時に『責任を取りたくない』と主疾患の薬に加え、副作用の恐れなどを理由に胃薬や痛み止め、睡眠薬などを“念のため”だとして処方する医師も多い」
一石英一郎医師(国際医療福祉大学病院消化器内科予防医学センター教授)も、「医師に起因する多剤処方がある」と語る。
「医療の細分化が進み薬理の相互作用が複雑化するなか、医師が薬を横断的に把握するのは非常に困難です。医師不足による忙しさも手伝い、知識が不足することはあるでしょう。他で処方された薬は患者さんの自己申告に頼るしかないのでコミュニケーションが重要になりますが、全ての医師が丁寧に聞くわけではない。情報共有が不十分だと多剤処方が放置されることになります」
問題はそうした多剤処方のなかに、「薬の危険な飲み合わせ」が含まれる恐れがあることだ。実際にそうした事例は多数報告されている。
原因は〈処方医の知識不足〉
まず参照したいのが、公益財団法人日本医療機能評価機構が公表する「薬局ヒヤリ・ハット事例」だ。全国4万超の薬局から危険な処方の事例を収集しまとめている。同機構の医療事故防止事業部担当者が解説する。
「調剤に関するヒヤリ・ハット事例のほか、処方医への疑義照会や情報提供に関する事例なども対象としています。薬剤師が『おくすり手帳』を見て飲み合わせ(併用注意、併用禁忌)を検討した結果、患者さんの健康被害を防ぐことができた事例が多数報告されています」