捕鯨砲を構える“てっぽうさん”。先端から発射される銛でクジラを仕留める。“てっぽうさん”は捕鯨の花形である。19年撮影(撮影/津田憲二)

捕鯨砲を構える“てっぽうさん”。先端から発射される銛でクジラを仕留める。“てっぽうさん”は捕鯨の花形である。2019年撮影 (撮影/津田憲二)

初の「生肉」出荷

 これから鯨肉の生産量を上げ、新たな鯨食文化をつくっていこう……。

 捕鯨に関わる人たちが期待する矢先、新型コロナが発生した。出航前の2週間、船員を船内に隔離するなど、感染防止に取り組んだ。

 共同船舶社長の所英樹は、5か月におよぶ航海のつかの間、お台場に寄港した第三勇新丸を特別な思いで見守っていた。共同船舶は沖合で捕鯨を行なう日本唯一の企業である。所は語る。

「今日は、特別な日なんです。日本の捕鯨の歴史で、はじめて沖合で捕獲した大型のクジラを生のまま東京に水揚げするのですから」

 第三勇新丸は、数日前に岩手県沖で捕獲した2頭のニタリクジラの肉、約600kgを積んでいたのだ。

 捕獲したクジラは、捕鯨母船「日新丸」で加工後に冷凍する。一般的に口にできるのは、解凍した肉である。だが、生の肉に比べると、味が落ちてしまう。

「新たな鯨肉市場をつくるためにも、クジラの本当の味を知ってほしいんです」

 そう考えた所たちは、捕鯨を一時中断し、生肉をお台場に運び、豊洲市場に出荷する計画を立てたのだ。

 捕鯨の存続が危ぶまれた時期もあったが、共同船舶は2024年3月までに捕鯨母船を新造するプロジェクトを公表した。国の補助に頼らず、鯨肉の売り上げなどで費用をまかなう。

 最後の希望──。阿部は新造母船をそう表現した。

「新母船がこれから続く捕鯨の象徴になるはずです」

 航海は11月末まで続く。第三勇新丸は、5か月で、212頭を捕獲する予定である。

取材・文/山川徹

※週刊ポスト2021年10月1日号

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