デルタ株出現で80%に上がった「接種ハードル」
ところが、ワクチン接種“先進国”では、接種割合がこの水準に達したのに集団免疫に至っていない。
その原因として、感染力が高いとされる「デルタ株」(インド型)などの変異株のウイルスが拡大したことで、基本再生産数が上がっていることが指摘されている。政府の分科会では、流行するウイルスの基本再生産数を5と仮定して、今後の感染拡大のシミュレーション計算を行っている。
デルタ株の基本再生産数が5だとすると、10人の感染者から5倍の50人に感染が拡大する。もし、この50人のうち、40人以上がワクチン接種で免疫を持っていれば、感染するのは残りの10人以下に抑えられる。
10人から10人以下への感染により、終息に向かっていく。そのためには、50人のうち40人以上、すなわち80%以上の人が接種によって免疫を持つことが必要となる。
つまり、集団免疫達成のための、接種割合のハードルが上がってしまったことになる。
もはやワクチン効果は限界といわれる「3つの理由」
政府の分科会では、ワクチンの効果の限界として、さらに3つの点が指摘されている。
まず、ワクチンの重症化予防効果は、デルタ株が主流となった現在でも高いと考えられるが、完全ではない点だ。これは、新規感染者が出現すれば、その中から重症者も出てくることを意味している。重症者の治療に伴う医療逼迫のリスクが拭えないこととなる。
2つ目は、ワクチン接種が完了したのに感染してしまう、いわゆる「ブレークスルー感染」が一定程度生じる点だ。ワクチン接種によって、たとえ感染しても重症化はしにくくなる。ただ、他の人に二次感染をさせてしまう可能性は残る。このため、感染の終息にはなかなか至らないこととなる。
3つ目は、ワクチン接種で得られた免疫が数か月で徐々に減弱していく可能性がある点だ。このことは、接種が進むイスラエルなどで、すでに観察されている。このため、2回の接種が完了した後でも、3回目の接種、いわゆる「ブースター接種」の検討が必要となる。
麻疹(はしか)や、おたふくかぜのように、ワクチン接種によって免疫を得れば、一生涯などの超長期に渡って、その免疫が維持される感染症と異なり、新型コロナウイルス感染症は、ワクチンによる免疫獲得についても一筋縄ではいかないようだ。