型に嵌まらない台詞回しで落語的リアリズムを追究した『藪入り』も良かったが、感心したのは『十徳』だ。隠居が「こじつけを思いついたので言ってみた」という演出の面白さもさることながら、当たり前の会話の中にこはるの“落語の地力”が表われていて、実に楽しい。達者な語り口で軽い噺をシンプルに演じて面白いというところに、こはるの真骨頂があるのだと、僕は思う。立川流の若手には珍しいタイプだけに、その長所を伸ばしてほしい。それが師匠の眼鏡に適った時、真打昇進への道が開けてくるはずだ。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『21世紀落語史』(光文社新書)、『噺は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年10月8日号