東京五輪開会式で入場するネパール選手団(AFP=時事)
「ガチャ……ああ、ガチャガチャ……」
バーフバリは店員かドジョーの単なる友人かわからないが(この手のカレー屋は在留ネパール人のネットワークでもある)、日本語はドジョーよりできるようだ。しかし説明しながら手首をクイクイ回している。どうやら硬貨を入れて回転レバーをまわすとカプセル入りの玩具が出てくる「ガチャガチャ」の話になっている。ドジョーは怪訝な顔でうなずいている。どんどん話がそれているようなので、筆者は「日本に生まれた人は運がいいと思うか」、というシンプルな質問に変えて投げてみた。抽選などの「くじ」のようなニュアンスで。
「ああ、日本人、運がいいね」
ようやく理解したのかドジョーは笑顔で答える。バーフバリもうなずく。日本人に生まれるというのはやはりネパール人にとって運がいい、ということだろうか。ネパールは国王による立憲君主制だったが20年ほど前に王族が惨殺され、2008年には最後の国王も廃位、中華人民共和国を後ろ盾にした毛沢東主義者たちに乗っ取られて以降、混乱が続いている。
「仕事ある」
とにかく仕事が大事なようだ。他になにかないか。
「スポーツ強い、うらやましい、日本応援した、がんばった」
店内の色あせたオリンピックステッカーを指差す。どうやら2020東京オリンピックの話。ネパール人の多くは親日家だ。ありがたい話だが、母国ネパールは応援しなかったのか。
「だめ、弱い」
笑うドジョー。確かにネパールは4種目エントリーで全て予選敗退、日本のテレビでやっているわけもなく応援しようがない。
「でも日本はサッカー弱いね」
そこにバーフバリが威圧感たっぷりに混ぜっ返してきた。実は日本が「サッカー弱い」という発言は以前、歌舞伎町で働く別のネパール人からも聞いたことがある。彼はメッシ(聞いたときはまだFCバルセロナ所属)のファンだった。バーフバリは「シティ」と答えたのでプレミアリーグの強豪、マンチェスター・シティが好きな「シチズン」(サポーターの愛称)のようだ。「日本弱い」はワールドカップ上位国やその一流リーグ、クラブと比べて、ということか。わかりきった話だが面白そうなので「ネパールも弱い」と言ってみる。「も」をつけるのは重要、彼らの面子は日本人のそれと少し違う。
「ネパールのはサッカーじゃないよ!」
バーフバリがマスク越しに大声を上げ、ドジョーが真面目な顔でうなずく。ネパールで一番人気のスポーツはサッカー(クリケットも人気)。みなさん詳しいが、多くは欧州の名門チームやスター選手の話ばかり。これまた別のコンビニで働くガナーズ(アーセナFC)愛のネパール人学生もそうだった。彼らは欧州リーグやクラブチームが好きなようだ。愛国心と現実は別というか、ネパール代表は予選敗退どころか棄権や不参加が当たり前、ネパールリーグに至っては資金難で未開催の年とかあるので応援しようもない。選手も同様だろう。