元ドロンズでタレントの大島直也
『別冊 有吉文庫』
長く雌伏の時期を過ごした有吉だったが、2007年、『アメトーーク!』で品川庄司の品川祐を「おしゃべりクソ野郎」と呼び、大爆笑をかっさらったことをきっかけに再ブレイクの道が拓けた。
猿岩石と同じ「出世コース」を歩んだ芸人がいる。お笑いコンビのドロンズだ。彼らも『進め!電波少年』で海外へヒッチハイク旅に出て、帰国後、ブレイクした。しかし、猿岩石同様、ブームは去り、2003年に解散を選んだ。
元ドロンズで、タレントの大島直也は、有吉が再ブレイクできたのは、ひと言で言えば「執念」だと話す。
「有吉は根っからの芸人なんですよ。本当に芸人になりたかった芸人。もともと毒づくキャラクターで、でも、旅から帰ってきて英雄になってしまったもんだから、毒づいた笑いをやると引かれちゃった。そこから時間はかかりましたけど、英雄キャラを払拭した。低迷していた頃、深夜番組とかで、かつて売れっ子だったというプライドも全部なげうって、下から這い上がろうとしている感じがカッコよく見えましたね。先輩とかも、そういうのを見ていたら、応援してあげたくなるじゃないですか。あだ名をつける芸も、言われた方は言われた方で、そのキャラに乗ってあげていたんじゃないですか」
有吉は2002年に『別冊 有吉文庫』という約60ページからなる小冊子を自費出版している。そこには、様々な偽名を使って『鼻くその行進』というエッセイのようなものを書いたり、『ガラコ』という小説を書いたり、はたまた詩を書いたりしている。
そこに何かが存在するとしたら、大島が言う「執念」以外の何物でもない。【利家と若松】という『利家とまつ』のパロディと思われる小文は、以下のようなものだった。
〈利家は聞いた、/『一緒に死んでくれるか?』/若松監督は答えた/『まあ、選手あっての事ですからねえ』〉
どん底と言われた時代、床を這いつくばりながら、こんなことを考えていたのだ。もはや執念を超え、狂気である。
そんな執念とは逆行するようだが、横山はこんな指摘もする。
「かつて大御所と言われたタレントは、1時間番組を作るのに3時間も4時間も撮ったものです。でも有吉は、1時間番組だったら、1時間10分で作る。時間のロスがなくて、視聴率はいい。時短営業を実践しているタレントですよ。これほど今の時代にふさわしいタレントはいないんじゃないですか」
ただ、横山は再ブレイク中も、ずっとこう思っていたという。
「どっかで落ちるだろ」
今も思っているのかと問うと、こう言った。
「もう、逃げ切ったでしょ。明日やめますって言っても、お金は持っていますから」
大気中を浮遊している凧は、いつかは落ちてくる。しかし、無重力圏まで上がれば、もう落ちてくることはない。
【プロフィール】
中村計(なかむら・けい)/ノンフィクションライター。1973年、千葉県生まれ。著書に『甲子園が割れた日』『勝ち過ぎた監督』『金足農業、燃ゆ』『クワバカ』など。ナイツ・塙宣之の著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』の取材・構成を担当。
※週刊ポスト2021年10月15・22日号
かつて漫才師・オール巨人の弟子だった堀之内裕史氏