そして、行政のずさんな管理体制や、隠蔽されていた事実が次々と浮き上がってきた。
辿皇くんの命を奪った松の木は、事故の6年半前に、県唐津土木事務所から「倒木の恐れと将来的に重大な事故に繋がる危険性が高い」という理由で伐採の申請が出されていたが、唐津市教育委員会が「不許可」としていたのだ。その時に伐採されていれば、この事故が起こることはなかった。
さらに、事故後、佐賀県が再発防止策として強化したはずの松の木の点検が手抜きで虚偽報告されていることも地元の『西日本新聞』の取材で明るみになった。
代理人弁護士の高橋正人さんはこう話す。
「日本には、松の木の名勝は他にもありますが、どれもきちんと管理がされ、国、県、市が協力し合って安全が保たれています。人間の命と文化財、どちらが大切なのでしょうか。文化財保護も重要ですが、松の木は再生できても、人の命は再生できません。
他では、安全を優先させ危険な木は伐採しつつ、苗木を植えて再生しているところもあります。でも、ここでは、国、県、市が責任をなすりつけあっているようにしか感じられません。佐賀地検の対応も酷いものでした。一体、誰が被害者で加害者なのか、物事の本質への切り込み方が甘いと感じました。
ご自身の子供や孫が同じ被害にあっても、危険な松をそのままにしておいて下さいと言えるでしょうか。自分のことと置き換えて考えていただきたい」
明日香さんは、国、佐賀県、唐津市を相手に裁判の準備を進めている。
虹の松原の事故現場には、辿皇くんを彷彿とさせるひまわりや辿皇くんが好きだったお菓子が供えられていた。明日香さんと、手を合わせる小野裕人さん。
「この絵が来てすごく支えになり、前向きにがんばろうと思えるようになりました。前へ進むきっかけとなる作品を作ってくれた小野さんは、その後も家や現場までいらして手を合わせてくださったり、辿皇の誕生日のお祝いをしてくださったり気にかけてくれて。ほんとうに感謝しかありません」
絵の中から息子が応援してくれているような気がするんです、と明日香さんは、自宅に飾っている辿皇くんとひまわりの絵を愛おしそうに眺めた。