高校を退学になり、19歳から35歳まで役者として生きてきた。転機が訪れたのは35歳のとき。

「役者といっても、役者として仕事しているのは1年のうち10日あればいいほうの、仕事のない俳優でした。30半ばになって、周りからも『そろそろあきらめろ』と言われ始めたときに、おれはいつも受け身で、本気で恥をかくことから逃げてたんだなとようやく気づいて、最後に劇団をつくったんです。

 脚本を書く人間がいなかったので、言い出したおれが書くよ、と書き出したんですが、書いた瞬間に、『こっちだな』と思った。メンバーにも『役者やめる』と宣言して、そこからですね」

 それからは、劇団だけでなく、テレビや映画にも活動の場を広げていった。

 小説を書き始めたのは、40代半ばからだ。

「脚本というのは、映画でもドラマでも舞台でも、大きな座組の一つで、監督や演出家、美術、カメラ、衣装、音楽と、それぞれの役割があり、さらに演じる俳優がいます。書き込みすぎると下手だと言われ、余計なことを書かないのがいい脚本とされるんです。小説家としては遅いスタートですけど、自分ひとりで、ゼロから世界をつくってみたくなったんですね」

 ふと嗅いだマイルドセブンの匂いでよみがえる、自分を捨てた母の記憶。脚本でいえばト書きにあたる細部が丹念に描かれている。

「紆余曲折あったなかで、さまざまな人に出会い、助けられてもきました。若い人にすすめられる生き方ではないけど、いろんな人に会えたのは自分の財産だと思うし、これからも人間を描いていきたいです」

【プロフィール】
一雫ライオン(ひとしずく・らいおん)/1973年生まれ。東京都出身。明治大学政治経済学部第二部中退。俳優としての活動を経て演劇ユニット「東京深夜舞台」を結成後、脚本家として活躍。2017年に『ダー・天使』で小説家デビュー。本作は『スノーマン』に続く第3作。「もう小説家一本でやりたいと決めて、2018年12月にタイトルから書き始めました」。次作への期待も高まるばかりだが……「そろそろ次作の執筆に取りかからなければと思っています(苦笑)」。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2021年10月28日号

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン