共演したホーン・ユキ(70)は、撮影現場での水谷の印象をこう語る。
「やんちゃな若者という感じでしたね。よく覚えているのは“スカートめくり”。あの頃はスカートめくりが流行っていて、撮影の合間に水谷さんが近づいてきて、パッと私のスカートをめくり上げると、キャッキャと逃げていく。それを萩原さんや監督さんたちがゲラゲラ笑って見ているんです。今思えばたぶん、兄貴分の萩原さんがやらせたんでしょうね。
だけど、そんないたずらっぽさの一方で、緻密に考え抜いてキャラクターを作り上げていく真面目さもあった。もしかしたらスカートめくりも、役に合わせて勇気を振り絞ってやっていたことなのかもしれません」
『傷だらけの天使』の放送直後には、アキラのリーゼントを真似る若者が急増するなど、ショーケンに並ぶ人気を得たが、「当時の水谷君には複雑な思いもあったのではないか」と、当作にも企画として携わった岡田氏は推し量る。
「アキラ役を演じてもらった経緯は、ショーケンが『相手役は水谷君がいい』と提案してきたからなのですが、こちらとしては、ショーケンが現場で多少わがままに振る舞っても、水谷君がいれば上手くこなしてくれるだろうという考えもありました。
水谷君にとっては、またしてもサブみたいな役どころは嬉しくなかったかもしれない。自分が主役をやりたいという気持ちも抱えていたんじゃないかな。実際、キャリア的にもそろそろ主演を務める時期にきていたし、いつまでもショーケンや優作を仰ぎ見るポジションに甘んじていることは、本意ではなかったと思う」(岡田氏)
1番ショート
雌伏の時期もあった水谷が大きな「主役」を勝ち取ったのが、1978年のドラマ『熱中時代』(日本テレビ系)だ。
役どころはアキラとはまったく違う、真面目で朴訥な小学校の新米教師・北野広大。熱血漢で底抜けに明るい北野先生は子供から大人まで魅了し、最高視聴率は46.7%を記録した。
お茶の間が文字通り“熱中”し、北野先生に憧れて教師を志すようになった子供や若者も少なくなかった。劇中、警察官役として共演していた谷隼人(75)が語る。
「厳しくて細かい演出家の要望を、遥かに超えるような演技でこなしていく。小回りがきくし、本当に上手いなあ~と感心しましたね。子供たちに呼びかける時の『先生はね~』という独特のセリフ回しをはじめ、北野広大という教師のキャラクターをしっかり作り込んでいた。
僕は喧嘩仲間のお巡りさん役で、豊ちゃんとはやり合うシーンが多く、丁々発止のやり取りは演じていても楽しかったですね。僕が豊ちゃんの肩に手をかけると、豊ちゃんがその手をパッと外す。打てば響くというか、タイミングとかリズム感がすごく良かった。
ゴールデンタイムのドラマ主演ということで、もちろん気合は入っていたと思うけど、そういう素振りは少しも見せない。気迫は感じさせても、気負いは決して見せないところが豊ちゃんの凄いところです」